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【読書録50】人間、流れ着いた場所で一所懸命頑張るだけ~出口治明「復活への底力」を読んで~

 脳卒中で倒れた著者のリハビリから学長業務への復職までの記録である。
読了後、すがすがしい気持ちになり、元気をもらう。

 楽観的に運命を受けいれる著者のバックグラウンドに「知識は力なり」というモットーがある。

 著者の悲観的にならず、運命を受け入れて、復職にむけてリハビリに向かう姿勢には、今まで読書などで身につけてきた知識を、単なる知識ではなく、人生の指針として、「力」にしている強さを感じた

 著者が、本書で述べているダーウィン、ニーチェ、ストア派の思想など、知識として知っている人はたくさんいるだろうが、自分の人生観に落とし込み、生き方として実践できる水準にまで落とし込めている人はそうはいないのではないかと思う。

 また自分がやりたいこと、進む方向性を明確にしたうえで、プロフェショナルである医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の教えに素直に従いリハビリに励む姿に強さを感じた。
 

脳の可塑性と「数字・ファクト・ロジック」


 脳卒中で重い障害が残ると、多くの患者が落ち込んだりうつ傾向になったりしがちだというが、著者がそうならなかった理由の一つに、「数字・ファクト・ロジック」を重んじる姿勢がある。

そもそも、脳卒中で障害の出た患者がリハビリに取り組むのは、脳に可塑性という特賞があるから。(中略)脳卒中の障害に対し、リハビリ治療を行う最大の目的がここにあります。リハビリは、脳の機能再編を最大限に促進するために行っているのです。
このように専門家が明らかにしているのですから、右半身の麻痺と言語障害がありながら復職を目指す僕が、スタッフの皆さんの指導に基づいて一所懸命リハビリに取り組むのは、当たり前過ぎるほど当たり前の話でしょう。「昔はできたことができなくなった」などと、ぐちって落ち込んでいる暇はありません。

 この心境にたどり着けるのは、素晴らしい。
頭で理解できても感情的には受け入れられないということになりがちであるが、このような心境になれるのは、「本当にやりたいこと」があり、また知識をベースにした精神的な強さを感じる。

自分のやりたいことについて著者は、「これを成し遂げたい」という強い思いがあれば、人間はなかなか死なないものだ」とも言っている。

運と適応の力と「人生楽しまなければ損」

 
 知識の力を感じさせる最も大きな点は、ダーウィンの進化論をもとに著者の信条になっている「運と適応の力」「流れ着いた場所で一所懸命頑張るだけ」のところである。

 何が起こるかは誰にもわからないし、賢い者や強い者だけが生き残るわけではない。ただその場所の環境に適応したものだけが生き残る。そこでは、運と適応が大切で、運とは適当なときに適当な場所にいることです。それは、人間にはどうすることもできない運命といえますが、その場所に居合わせたとき、どんな適応ができるか。すなわち、どんな意欲を持ってどんな世界にしたいと思って動くかは、自分の意志次第です。

 またレビィ=ストロースの「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」という言葉すなわち、世界の存在は人間の意志や認識によって認められたものではなく、世界は勝手に始まり勝手に終わるものだという説も取り上げ、こうつなげる。

将来何が起こるかは誰にもわからないのなら、川の流れに身を任せるのが一番素晴らしい。人間にできるのは、川に流されてたどり着いたその場所で、自分のベストを尽くすことぐらいです

 このあたり、あるがままを受け入れる禅的あるいは、老荘的な思想にも相通じる面を感じる。

そしてこう言う。

なにより明確なゴールに向かってただ真っすぐに進んでいく人生より、川に流され、時には岩にぶつかったり濁流に飲まれたりしながら、思いもよらない展開のなかで一所懸命に生きていく方が面白いに決まっています。
何度も繰り返しますが、人生は楽しまなければ損です。

新型コロナウイルス禍後の世界の変化

  
 最終章のタイトルは、「チャレンジは終わらない」。
新型コロナウイルス後の世界について、歴史的な視点から以下のように言う。

新型コロナウイルスの流行は社会に不可逆的な変化をもたらし、中長期的にはコロナ前と後では、まったく異なる世界になるでしょう。

ステイホームを経験して、みんな家族や友人と過ごす時間の大切さを痛感しました。一時的な揺り戻しはあったとしても、働き方改革はどんどん進んでいくと思います。働く人のITリテラシー向上と企業風土の変化は今後、IT化さらに加速させ、結果的に世代交代が進むでしょう。それは若い人にとってのチャンス到来であり、チャレンジする環境がよくなったと捉えられるでしょう。

そして、著者は、本書をこう結ぶ。

APUだけでなく、僕自身のチャレンジもまだまだ続きます。
「知識は力なり」をモットーに、これからも「迷ったらやる」を実行していきます。

 大病のような何か大きな出来事があって人生観が変わるわけではなく、日頃の心掛けや、人・本・旅との向き合い方、考え方が大切なのだと思った。

 迷ったらやる、
 人生楽しまなければ損、
 置かれた環境で一所懸命にやるだけ。

大切にしたい考え方です。

 また本書を通じて、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の仕事の事を知ることができた。改めて日々、障害からの回復に努められている方々に伴走されているみなさまに敬意を表したい。

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