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【読書録72】致知 2022年12月号 「追悼 稲盛和夫」感想

 2022年12月号の致知は、今年の8月24日にお亡くなりになった稲盛和夫さんの追悼特集号である。
 思い返してみると、私が、致知の購読を始めたのも稲盛さんの経営哲学がきっかけであった。

 本号では、京セラ元社長の伊藤謙介さん、KDDI元社長の小野寺正さんなどの、稲盛さんと一緒に働かれた方々や永守重信さん、柳井正さんという稲盛さんと同じく日本を代表するアントレプレナーの方々、また盛和塾の塾生であった方々からサッカーの岡田武史さん、野球の栗山英樹さん、作家の五木寛之さんまで幅広い多く方々が登場する。

非常に読み応えがあり、また稲盛哲学の真髄を再認識する良い機会となった。

そんな中から、いくつか心に残った記事を取り上げたい。

特別講話 人は何のために生きるのか

 
 稲盛さんが、2013年に行なった「盛和塾大阪市民フォーラム」での特別講話である。
何と言っても一番心に響いたのは、「運命という縦糸と因果の法則という横糸」の話である。

講話から抜粋する。

「私たちは自分に定められた運命という縦糸を伝って人生を生きていくのだ」と思うようになったのです。

自分自身に定められた運命に従って生きていく節々で自分が思ったこと、自分が実行したことによって、人生の結果がまた新たに生まれてくる。この因果の法則というものが横糸として我々の人生の中を走っているのではないかと思うようになったわけです。

運命という縦糸があり、因果の法則という横糸がある。
この二つの糸で織られていったものがそれぞれの人の人生を形づくっている。そのように考えてまいりました。

稲盛さんがこのように考えるようになったきっかけが、安岡正篤さんの「立命の書『陰騭録』を読む」に出会ったことであるという。

陰騭録の内容は、割愛するが、予言通りに生きてきた主人公に対し、禅寺の雲谷老師が、因果の法則を諭す場面は心に留めておきたい。

「我々には皆、それぞれ運命というものが備わっています。しかし、その運命のままに生きるバカがいますか。運命というものは、変えられるのです因果の法則というものがあり、人生を運命のままに生きていく途中で、善いことを思い、善いことを実行すれば、運命は良い方向へ変わっていきます。また悪いことを思い、悪いことを実行すれば、運命は悪い方向へ変わっていくのです。この因果の法則というものが、我々の人生には皆、厳然として備わっているのです。」

 稲盛さんはこの本を読んで「どのような運命に遭遇しても、善いことを思い、善いことを実行するような人生を送っていこう」と強く思うようになったという。

 経営者として苦闘する中、稲盛さんが掴み取った価値観。私も大切にしたい。

人生における試練に出遭った時、その試練にどのように対処したのかによって、その後のその人の人生が決まっていくのではないかと思っています。

一冊の本を読んで、感動する、共感する。これは誰にでもあることである。ただそれを自身の指針として深く刻み込み、生涯続けて実行していく。なかなかできることではない。
 心底感服し、実行し続けたからこその偉大な実績を残すことができたということであろう。

 そのような稲盛さんの姿に圧倒されるが、凡人である我々に対して、以下のように救いを差し伸べてくれている。

しかし、そのように考えて心を磨こうと思っても、実際にはなかなかうまくいかないのが人間です。「儲かるかどうか」「自分にとって都合がいいか悪いか」といったくだらない思いで、ついつい行動してしまうのが人間というものです。
そうした悪しき思いがでてきた時には、その思いをモグラ叩きのようにして叩き、抑えていくことが重要になります。そのようにして、日々反省していくことが、心を磨くために不可欠なことだと、私は思っています。

我々凡人が厳しい修行を積み、立派な人格者になることは難しいことです。しかし、人格を高めていこう、自分の心、魂を立派なものにしていこうと、繰り返し繰り返し努力していく、その行為そのものが尊いのではないかと、私は思っています。

運命の縦糸と因果の法則という横糸。少しでも魂を磨いて、運命を変えていく。ただ、あまり完璧を求めて気負いすぎない。日々反省し、一日一日を大切に少しでも前進していく。そんな気持ちになった。

稲盛さんに教わった人生で大切なこと


 サッカー元日本代表監督・岡田武史氏と侍ジャパントップチーム監督・栗山英樹氏の対談記事である。
 岡田さんは、稲盛さんから直に薫陶を受けており、盛和塾にも入塾していた。栗山さんは、稲盛さんの著書から学び、2019年に面談する予定であったが、稲盛さんの体調が悪く最後まで会うことができなかったという。
 栗山さんは、「気づいた時に行動しておかないと学べなくなってしまうのだ」と後悔したという。

 お二人の対談でも、先ほどの講話と同様、人間の弱さを前提として、どう生きていくかという所が印象に残る。

 岡田さんは、稲盛さんから言われたとしてこう言う。

 「いや、岡田君。人間なんだからエゴ、自我があってもいいんだ。でも、その自我を真我が上回っていなきゃいけない」とおっしゃいました。「真我って何ですか?」と伺うと「真実の我だ、つまり宇宙の法則だ」と。

 岡田さんは、その時には腹落ちしなかったが、FC今治の経営をする中で、こう考えるようになったという。

会社という組織は当然売り上げも利益も上げて成長しなければいけませんが、人知を超えた大いなる力に逆らってはいけない。我われの会社にとっては企業理念を超えてまで稼いで世界一になることが目的ではないので、このバランスをコントロールする尺度を持ちなさいというのが稲盛さんの真意だと僕なりに解釈しています。

栗山さんは、岡田さんのこの話を聞いてこう応じている。

人間には弱さがあるから、それを認めてよくなろうと努力するんですね。

 私にとって、宇宙の法則というのが、稲盛さんの哲学で一番分かりにくい点である。
 岡田さんは、その点についてこう言う。

稲盛さんの言う「宇宙の法則」じゃないけど、この歳になって目に見えない何か不思議な力があることが理解できるようになってきました。

 人知を超えた何か大きな力を「宇宙の法則」と考えると理解しやすいかもしれない。

岡田さんにとって、メンター的存在だという田坂広志氏から言われた言葉としてこう紹介もする。

岡田さんがやるべきは心を整え、感謝して、”全託”することです。すべては導かれますから「導き給え」と祈りなさい。

 自分がやるべきことを総てやったら、すべてを受け容れ、「導き給え」と祈る。人知を超えた大きなものに対する崇拝の気持ち。田坂さんは、毎朝太陽に向かって、「導き給え」と祈るとよく語っている。
 稲盛さん同様、宇宙の法則についても良く語っているが、自分でできることを全力でやり切った後に訪れる境地なのかなと考えた。

 またお二人共通で、稲盛さんの言葉で何か一つあげろと言われて「小善は大悪に似たり大善は非常に似たり」を上げているのは勝負の世界で生きる人ならではと思った。

 企業経営の世界のみならず、スポーツの世界でも受け入れられる稲盛哲学。更に稲盛さんの偉大さを知れた対談であった。

稲盛和夫の遺した金言


 最後に、稲盛さんの遺した金言を紹介した記事からいくつか特に大切にしたいものを取り上げたい。

稲盛さんの金言には、

人生と経営の困難を乗り越えてその身に刻んだ知恵を、全身全霊で吹き込み続けた氏の「分身」とも言うべき言葉には、実り多き一生を全うするための普遍的心理が詰まっている

とする。

天職

 「天職」とは出遭うものではなく、自らつくり出すものなのです。

成功と失敗は紙一重

 成功する人と、そうでない人の差は紙一重だ。成功しない人は、必ずしも責任感が無いわけではない。違いは、粘り強さと忍耐力だ。失敗する人は、壁に行き当たったときに、体裁のいい口実を見つけて努力をやめてしまう。

満は損を招き、謙は益を受く

 中国の古典「書経」に、「満は損を招き、謙は益を受く」という言葉があります。古来、満ち足りて驕り高ぶる者は大きな損失を被り、一方、常に謙虚に「相手に良かれかし」と考えている者は、素晴らしい幸運を勝ち取る。これは、まさに時代を超えた世の中の道理であり、それは二十一世紀の今日も決して変わることはないはずです。

まだまだ多くの金言がある。永久保存版としたい。


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