東京家族~ご対面~

 その日私はコストコに行く準備をしていた。妊婦の私は臨月を迎えていた。初産とあり周りからは出産予定を過ぎると言われていた。予定日まで二週間もあった。だからと言って余裕をかましていたわけではないが、家に居るのも退屈なにで弟夫婦の車に同乗してコストコに行くことにした。夫はと言うと、ゴルフに出掛けていた。そんな夫のことなど気にすることもなく、家を出ようとしたとき下半身に違和感を覚えた。お下からちょろちょろと水が出ているのを感じた。妊娠すると頻尿になった何かと下半身のトラブルが起きる。だが、そう言った感じではなく無意識に起こっている感じだった。念の為、病院に電話し状況を説明した。どうやら破水しているようだ。私はコストコではなく病院へ行き、そのまま入院をした。
 破水をしたら二十四時間以内に子どもを出すらしい。詳しく説明をされたような気がしたがもう忘れてしまい、覚えているのは羊水が無くなると危険だということだ。私はお産着のようなものに着替え、間もなく産む人専用の部屋に入った。暫くして、ゴルフウエアを着た夫が登場した。
「本当はもうワンラウンドしようと思ったけど、一緒に行った人が帰った方がいいって言うからさっ。」
「その人の言う通りだよ。」
「何か、大丈夫そうだね。着替えてきてもいい?」
「そのサンバイザーが目障りだからそうしてくれ。」
 お腹も痛くないしいつもと変わらない体に、本当に生まれるのかと不思議だった。その晩は何事もなく、過ぎて行った。
 次の日にお腹の中を見たり体を調べたりしたが生まれてくる気配もなく、様子を見ることとなった。お昼ご飯として出されたそうめんを食べ、する事も無いので昼寝をした。夕方あたりにお腹なのか腰なのか分からない部分の痛みがきた。しかしすぐに収まった。そしてまたその痛みが来た。これが陣痛のようだ。仕事終わりに主人が病院へと来た。苦痛にもだえる顔の私に幸せ全開の笑顔をした夫がやってきた。
 だんだんと痛みが強くなり横になっているのも辛いのに、全く出てくる様子もない子ども。このまま痛みが永遠に続くのでと思えた。そんな私の心情を察してくれたのか、看護士さんがテニスボールを夫に渡した。
「これでお尻を強く押してあげて下さい。」
夫は言われるまま、私の尻にテニスボールを押し付けた。何と不思議でしょう、痛みが和らいだ。お腹の中の子と夫が押し合いをしているようだった。それでも出てこない子どもに先生が別の手段を取ると言った。何やら周りが慌ただしくなり、一枚の紙を私の元に持って来た。子どもが出てきやすくするための促進剤を打つが、万が一のことがある可能性があるので了承してくださいと言った感じの事が書かれていた。私と夫がその紙に目を通している間に、先生が私の体を確認すると・・・
「あれ、頭出て来てる。すぐに分娩台に連れて行って。」
私は戦い抜いたボクサーのように両脇を抱えられ分娩台へ連れて行かれた。私をお見送りにきた夫は、連れて行かれる私に向け、グータッチを求めてきた。
「がんばれよ。」
確かにここから先、夫にできることは何もないが無性に腹が立った。その後、子どもはすぐに生まれた。
 生まれたばかりの我が子は例え、ふやけていても可愛かった。看護士さんが、夫へ声をかけた。
「抱っこしてあげて下さい。」
その言葉に夫は満面の笑みで
「大丈夫です。」
と断っていた。
 

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