東京家族~夫、父になる~

 娘が四歳になるまで、夫が自分に子どもがいることを受け入れられなかったらしい。私が不貞を働いたとかそういうことを疑っているわけではなく、小さな子が家に居ることが不思議だったようだ。夫はどちらかというと子どもは苦手な方で、身近に子どもがいない大人生活を送ってきている。だから、私が妊娠したと分かった時、無知ゆえの配慮のない言葉を悪気もなくかけてきた。ではなぜ四歳以降、娘を子どもとして受け入れ始めたのかというと、それは幼稚園に通い始めたからだ。
 幼稚園に通うことで見える成長や同年代の中で見える個性などどいった子ども主軸の観点の他に家族との関わりもある。送り迎えを取って見ても様々だ。我が家は主に私が送り迎えをしていたが、夫の仕事が休みの時は夫に頼む事もある。夫にとっては幼稚園は管轄外だった。けれども父となった今、幼稚園とは身近な場所だ。夫にとっては父になる為の試練だった。
 試練は幼稚園に入る前から始まった。幼稚園の門は防犯上オートロックになっている。隠しボタンを押しロックを解除しなければならない。しかし夫にはその隠しボタンがどこにあるのかが分からず、門の前で右往左往していたようだ。首からぶら下げていた保護者カードのおかげで、娘の保護者と認められ開けてもらったようだ。そして保護者の列に並び、我が子を待っていた。 迎えに行くと子どもたちは自分のお迎え相手の元に駆け寄り、抱き着き、愛情を体現してくれる。娘も例外ではなく私にいつも抱き着いて来てくれる。なので夫にもそうだと思っていた。家に帰って来た娘が私を見るなり「ママいるじゃん。なんでパパが来たの?」と理由を聞いてきたが、これと言った理由などないので逆に質問をしてみた。「嫌だったの?」娘はクールに「いつもと違ったから、なんでかなと思って。」夫は若干四歳の娘に気を使われていた。けれども娘の中でどうしても納得いく理由が欲しかったのか、布団の中で私にだけ聞こえる声で「なんで今日のお迎えパパだったの
?」と聞いてきた。私は理由がないなりに正直に答えた。「ママは家の用事をしてて、ゴロゴロしてたからパパを行かせたの。」「なるほどね。」どうやら納得してくれたようでその日以降、夫が迎えに行っても何も聞いてはこなくなった。そして夫はお迎えに行くと娘が抱き着いてくるいう事実を今も知らない。


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