東京家族~夫とは、父とは~
夫が家出をした。理由は家の中での自分の扱いに不満がるとの事だ。なぜ夫がそう思ったのかを考えてみると、思い当たる節が多々ある。しかし、それには理由がある。
結婚して十六年、親になって十年、夫は良くも悪くも結婚前から変わらない。自分中心で物事を見ている。だからと言って横暴だというわけでもない。外で美味しいものを食べれば私や娘にも買ってきてくれる。ただ、その食べ物が私や娘が苦手なものだったとしても、それは夫には関係ない。夫は自分が良いと思ったものはきっと私や娘も同じように思ってくれると信じて疑わない。何度も苦手だ、好きではない、嫌いだ言っても覚えていないのか、最初から聞いていないのかは分からないが、繰り返し買ってくる。言う方も疲れるのでいつの間にか私と娘は何も言わなくなった。その結果、夫の好意に対してドライな対応になっているらしい。そのドライな対応が夫曰く、悲しいとのことらしい。いつもなら面倒くさいと思いながらもなだめたり、少し親切にしてあげたりしていたがそう毎回できるわけでもない。
なぜなら、私と娘はホルモンによって感情をコントールされているからだ。いつもなら気にもしない夫の言動に苛立ち、扱いも乱雑になる。そしてその日が訪れた。夫はメモを一枚残して家から居なくなった。
私と娘は気にすることなく夫の家出を受け入れ、時間と共に家出という事実を忘れていた。夫の家出を思い出したのは、夫が家に帰って来た時だった。何食わぬ顔で帰って来た夫はハーゲンダッツを手にしていた。どうやら、娘から父へお使いの連絡がきたようだ。クッキークリームをご所望の娘に対してバニラを買ってきてしまい、叱られている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?