見出し画像

響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ トークショー付き上映会レポート(2019/05/10)

はじめに


2019年(令和元)5月10日(金)、ムービックス京都(京都市中京区)で、映画「響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ」(2019年・松竹、京都アニメーション作品)のスタッフトークショー付き上映会が開催された。
会場となった同映画館で2番目の規模をもつ南館10番スクリーンには、京阪神のほか、中京地区などからの遠征組も含む300人以上のファンが集まり、本編上映開始となっても観客の入場が間に合わないなど、混乱が見られるほどの大盛況となった。
本編の上映終了後、監督の石原立也氏、総作画監督の池田晶子氏(兼キャラクターデザイン)と、西屋太志氏が、劇場側の司会とともに登壇。短い時間ながらも、作画から演出にいたる幅広い話題で大いに盛り上がる内容の濃いトークショーとなった。

【注意!!】本文には、本作やその他「響け!ユーフォニアム」シリーズへの言及(いわゆるネタばれ)があります。映画未鑑賞および原作未読の方につきましては、その点をご留意ください。また当イベントは撮影・録音が禁止されたものであり、以下の記述に関して一部、筆者の憶測、妄想が含まれることを予め明記しておきます。

キャラクターデザインについて。

デザイン作業は、先行して制作された同じ原作(「波乱の第二楽章」)の前編にあたる「リズと青い鳥(2018年)」(以下リズ)との兼ね合いで、早いうちから行なわれており、結果として多くの時間をかけることができたという。池田氏によれば「リズ」の作画開始時には、登場するキャラクター全員分(80人超)のラフデザインは完成していたとのこと。
誓いのフィナーレ(以下フィナーレ)」のメインキャラとなる、低音パートの新入生のデザイン作業は総じて順調に進むが、鈴木美玲(みっちゃん)は監督が何度もリテイクを出したというエピソードが披露される。池田氏から監督の好みを理解した上で「敢えて」不正解となるデザインから先に出して、正解(決定稿)を早く上げようという策略(?)によるものであると明かされると場内はどよめく。
思わぬ暴露話(事前の打ち合わせ等は無い模様)に、原作イラストとはちがうアプローチ(小動物系)でデザインされた久石奏が、実は自分の好みではなかったと明かすことで監督は応戦。デザイナーがショックを受けるという一幕で盛り上がった。

余談ながら、現在刊行中の原作小説第三部(「決意の最終楽章」)では北宇治高校吹奏楽部は部員数100人越えの大所帯となるという。

 作画について。

作画作業は「リズ」の制作終盤と同時、あるいは食い込み気味に開始されたが、監督による絵コンテ(後述)が制作スケジュールを圧迫してしまい、作業は公開間際のギリギリのタイミングまで続けられた。監督の熱量のこもった絵コンテに対し池田氏は「総作画監督の2人(分担)態勢」を要請するに至る。西屋氏を直々に指名した上で作画担当の割り振りも池田・西屋両名で行なった。この決定に監督は口をはさむことはできなかったという。
楽器の作画について、専属のデザイナー・作画監督がいるため直接は関わっていないとしながらも、総作画監督が挙げる「いちばん作画が大変(そう)な楽器」は「身体に巻きつけるやつ(チューバのこと)」で、演奏するキャラクター作画がいちばん大変だったのは「ハープ」だったと明かす。

「ハープ」で音を奏でているように見せるためには、すべての指が動いてなければならず、このため原動画に費やされた枚数が尋常ならざるモノになったと池田氏は述懐した。この件に関して池田氏からは、ねばり強く描いてくれた担当スタッフへの労いの意味もこめて、一連のシーンの原動画を今秋開催予定の京都アニメーションの関連イベントで公開するという発表を抜き打ちで行った。
当該のイベントについて。現在予定されているのは、本年11月3日・4日開催予定の「届け!京アニ&Doのいろいろ編」(京都市勧業館みやこめっせ)と、同11月9日・10日予定の「響け!京都から世界へ編」(ロームシアター京都)で、当該の展示はどちらで行われるかは執筆時点では確認できない。(追記。当該イベントは諸事情により中止となった

総作画監督が挙げる「好きなシーン」について。
西屋氏は「あがた祭デートではしゃぐ、久美子と秀一」を、池田氏は「雨の中で追いかけっこをする久美子と奏」をそれぞれ挙げる。理由はそれぞれ「普段見せないキャラクターの表情が楽しそう」と「濡れた髪の毛を描くのが楽しい」とのこと。
後者のシーンに関して、石原氏からは、雨でずぶ濡れになるキャラクターの服装の色指定について「最初のバージョンでは濡れて肌に張り付く制服の色が肌色系統になっていた」という裏話が披露される。久美子が下着(ブラジャー)を着けていないように見えるため即座に修正されたという監督のオチに場内からは苦笑がもれる。(注:久美子には自身の発育に一部不満があるという設定がある)

演出について。

総作画監督両名が口を揃えて指摘する「非常に高カロリーな画面づくり」について、「リズ」の監督で本作ではチーフ演出を務める山田尚子氏をして「石原さんは地味にきつい(絵)コンテを描きはる(監督によるメモの読み上げ)」と言わしめた絵コンテに関して、監督は陳謝した上で、山田監督と自分の絵作りの違い(演出方針の違い)を「山田は望遠レンズ(風)の画角を好み、僕は広角レンズを好む」と分析する。
背景に写る人物の数や、キャラクターのレイアウトなど「画角の広い作画」の手間は膨大なものであり、対する総作画監督は監督の熱意に理解を示しつつも、「よく完成できた」と本音(?)が思わず出てしまう。
監督からは作画の負担を減らそうとしたというエピソードも披露されるが、しかし挙げられたのは失敗例としての「鎧塚みぞれの演奏シーン」であった。背景回りこみでなるべく楽器を描き込まずに済ませるようにする演出プランは、結局キャラクターの背中側にカメラが周りきれず、却って様々な角度でオーボエという、よりにもよって、いちばん手間のかかる楽器を延々と描き込むことになってしまったという。会場からは、笑いよりも聞いているだけで胃が痛くなってくるという嘆息が漏れた。

これほどの作業を強いられてもなお、スタッフの士気は盛んであるとは両作画監督の一致する見解であることに驚かされた。監督は描き上がった絵コンテをまず西屋氏に見せて反応を確かめるが、氏は常に肯定的な態度で接していたという。「限界はわたしが決める」という本編主題歌(第2期オープニング)の歌詞を地でいく京都アニメーションの底力を垣間みるエピソードである。

監督からは、テレビシリーズ(2期)とその総集編映画を経て、原作小説の第二部「波乱の第二楽章」を、京都アニメーションとしては初の試みとなる長編アニメーション映画にまとめるにあたり、、後半の「希とみぞれ」のエピソード(「リズ」)と全体を描く「低音パートを中心とした」エピソード(「フィナーレ」)からなる二つの映画を一つに見せるための「整合性」について、共通する場面を別の視点で描くという事で監督が想定していたのは「久美子と麗奈がふざけて(希とみぞれの掛け合いのパートを)セッションする」場面であったことを明かす。しかしその演出プランは上映時間や作画作業の関係で断念せざるを得ず。結果、採用されたのは登場人物が「ハッピーアイスクリーム!」と言い合う場面で落ち着く。
原作小説の読者には周知のことだが、「ハッピーアイスクリーム!」は映画のオリジナル(正確には昭和のフォークロア由来)で、これを映画のどこの部分に組み込むか、なかなか決めることができず、試行錯誤の末に、池田氏に促されてようやく完成できたという曰くつきの場面であったという。

こぼれ話として「リズ」に関する一連のエピソードは石原監督も狙っていた(!)とのことで、同作の監督を務めた山田氏に対しては「美味しいところ持っていきやがって!」と率直な感情(?)を吐露している。

「響け!ユーフォニアム」の今後について。

トークショー冒頭のあいさつで、公開4週目(5月10日)時点で、映画は興行的に満足のいく成績を上げていることが監督から明かされ、配給元(松竹)と制作(京都アニメーション)は、5年以上続いてきた本シリーズを少しでも長く続けたいという意向を示している。
「続編」については、明確な言及は避けつつも、現在刊行中の第三部「決意の最終楽章」(文庫本下巻が6月下旬発売予定)映像化への意欲を見せる。会場からは、観客の意向を知りたいであろうスタッフの意を汲んだ(?)歓迎の拍手が送られた。映画を見た者からすれば、歓迎以外の選択肢はないし、ここで終わったら寝覚めが悪いというのは観客の総意であるとは思う。
将来への展望で大盛況のうちにトークショーは無事終了した。

本稿執筆中の6月に、京都アニメーションから正式に「決意の最終楽章」の映像化決定が発表された。具体的なスケジュールや公開フォーマット等などは不明だが、原作小説を読む限りにおいては、じっくりと時間の取れるテレビシリーズ向けの題材だと思われたので、続報を待ちたいところである。

まとめ

トークショー前に、二度目の鑑賞となった本作への「非常に高カロリーな作品」というスタッフの指摘は、非常に示唆に富むものである。たとえば劇中で一線から退場して裏方に回る「加部ちゃん先輩(三年生)」が、オーディションを辞退するための段取りが映像や演出で丁寧にフォローしていることに気がつくと、よく観ればまだまだ見つけられという確信はある。

また、長いスパンで放送されるテレビシリーズ1クール(13話)から劇場映画シリーズ数時間に「圧縮」(6時間→3時間強)するという作劇意図も、人間関係の不協和音がもたらす結果を描くという視点で見れば妥当であるように思えた。ちょっとしたすれ違いや軋轢といった人間関係のズレを修復しきれなかった結果が「希とみぞれの実力の差が露呈すること(「リズと青い鳥」のクライマックス)」で露わになり、「フィナーレ」の悔いの残る結末(府大会敗退)へ至るという結末は、それを長期戦(テレビシリーズ1クール)でやると焦点がぼやける懸念があるように思われた。

両作を続けて観る機会はまだ得られていないが、可能となればまた違った観点が見えてくように思う。「何度見ても発見がある」というスタッフの発言に大いに納得する貴重な経験であった。

付記

2019年(令和元)7月18日(木)に起きた、京都アニメーション第1スタジオ放火事件の犠牲となった、池田晶子、西屋太志の両氏に、深甚の敬意と哀悼の誠を捧げます。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?