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地域とヨソモノのズレ

執筆を依頼された、福島民報「民報サロン」の記事をアーカイブとして、noteにも残すことにしました。2020年5月31日分です。一部段落構成は記事から変更しています。

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県外からの移住者として岳温泉で活動する中で、私が普通だと感じることが地域にとっては新鮮な見方だったり、逆に、地域の人の日常の一こまが私にとっては貴重で珍しいものに感じられることがあります。

この地域とヨソモノの間の感覚の「ズレ」は地域に埋もれている魅力を発掘するヒントになるものであり、地域づくりにおいて重要な鍵を握っているのではないかと私は考えています。

協力隊一年目の活動で「adatara」という観光パンフレットを制作したときのことです。岳温泉や安達太良山の魅力を伝えるおしゃれなパンフレットを作りたいとの思いから、自ら企画と編集を行い、安達太良山周辺地域の観光スポットやおすすめの飲食店などを幅広く紹介しました。

「adatara」が他の観光パンフレットと大きく違っていたのは、複数の自治体の観光地を共通項である安達太良山を軸に、広域で紹介したことでした。

安達太良山を中心にした地図上の方角をもとに二本松市、福島市、猪苗代町、北塩原村、郡山市、大玉村を東西南北の四つのエリアに分けて、ページを構成しました。山の東にある二本松市は「東あだたらエリア」、北にある福島市は「北あだたらエリア」という具合です。

完璧な構成とは言えませんが、自治体の枠を超えた新しいエリアの分け方に、県内や地元の方からは新鮮な反応がありました。

観光客目線の私の感覚が地域では新しい見方と捉えられ、「安達太良エリア」としての新たな広域PRの可能性を発見した瞬間でもありました。


反対に、地域の当たり前の感覚がヨソモノの私にとって、貴重に感じられた経験もあります。


岳温泉には安達太良山の源泉地帯の保護管理や引き湯のメンテナンスを行う、湯守(ゆもり)と呼ばれる職人がいます。彼らは「お湯のお医者さん」とも言える存在で、温泉が止まることがないように日々、山で作業を行なっています。

湯守は週に一回程度、湯花(ゆばな)という温泉成分の固まりが温泉の流れる管に詰まるのを防ぐために、湯花を流し落とす作業を行います。作業日には、普段は透明な岳温泉の湯が真っ白になり、いつもより濃厚な温泉を楽しむことができます。

元々この作業は湯樋(ゆどい)清掃と呼ばれており、地元ではそれほど価値があるものと見られてはいませんでした。しかし、湯守の文化に初めて触れた私は、清掃日の濃厚な温泉は週一回だけ入ることができる特別なものだと感じ、別の言葉で表現しようと考えました。

結果、「湯花流し」と表現を変えたことで、地元でもその価値が認知されるようになり、SNSなどでの情報発信を通じて一般客にも少しずつ知られるようになりました。


このように感覚のズレをきっかけに、地域とヨソモノ、それぞれの当たり前が大なり小なり、新しい価値に変わるのはよくあることで、その度に私は地域の新たな可能性を感じています。

必ずしも簡単なことではありませんが、お互いの感覚のズレを肯定的に捉え、受け入れた上で手を取り合うことで、地域はもっと輝くようになるのではないかと信じています。


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