事業拡大を目指す経営者は減る一方
事業拡大を目指す経営者は、今後、減る。
正確には、既にもう減っている。
今回は、この辺りのことを書き綴っていく。
ちなみに、ここで言う「事業拡大」とは、主に「売上」や「従業員数」の拡大こと。
必ずしも、それが会社の利益や個人の給与と比例するとは限らないことは最初に断っておく。
社会保険料
社会保険制度が限界に達している。
正確には、とうの昔に限界を超えている。
これを説明するのに、難しい計算は必要ない。
国税庁が上記グラフで分かりやすくまとめている。
国の実質的な可処分所得である「一般歳出」の約半分が社会保障費で消えて行く。
ちなみに「一般歳出」は、企業で例えると「借金の返済」と「税金」の支払い分を除いた予算のようなもの。
これは超乱雑な例えだが、この予算の半分を社会保障費として使うのが現状だ。
――― となると、社会保険料が高くなるのは当然だ。
徐々に上げてきた厚生年金と健康保険。
いつの間にか追加されていた介護保険料。
健康保険は、まだまだ上限金額が上がっている。
さらに、社会保険料を支払わなければいけない人の対象を拡大している。
このまま順当に進むと「未成年の学生からもアルバイトをすれば社会保険料を徴収するぞ」というくらいの勢いだ。
――― 社会保険料は会社にも大きな影響を与える
なぜか理由は分からないが、日本では社会保険料の半分を会社が負担することになっている。
給与明細に記載されている社会保険料の天引き金額は、実は半額ということになる。
残りの半額は、会社が払っている。
おそらく、多くの中小企業は、法人税より、社会保険料の負担分の方が多い。
むしろ、社会保険料の納付を滞納している会社がいるくらいだ。
こういった理由から、若い経営者は、雇用を敬遠する傾向がある。
解雇規制
これは今に始まったことではないが、日本では正当な理由がない限り「解雇」ができない。
解雇条件を簡単にまとめると…
A.事業が壊滅的で雇用を継続できない
B.解雇に値するほど、悪いことをした
C.解雇する前に、解雇の回避に尽力したが無理だった
どれかに当てはまる必要があるのだが、現実的な理由はAくらいだ。
Bは、問題外。
Cの尽力が認められることは、殆ど無い。
「終身雇用制」が成り立っていた頃は、それほど問題にならなかったようだ。
しかし、現在は会社への定着率はかなり下がっている。
労働者は自由に退職して転職する時代だが、雇用者は自分の意志で解雇をすることはできないというアンバランスな状態になっている。
これと社会保険料の増加を合わせると、雇用を敬遠する動きが加速する。
アウトソーシングとIT活用
各業界は、確実に進化していく。
その中で、業務は細分化される。
そうなると、細分化された業務をアウトソーシングとして請け負う業者があらわれる。
今となっては、多くの業界で多くのアウトソーシング先が生まれている。
そして、日々、品質は良くなり、スピードは早くなる。
やがて、社内のスタッフが対応するよりも、コストもクオリティも安くなる。
そうなってくると、社内で必要なスタッフの数自体が少なくなっていく。
同じことがITテクノロジーの活用によって起こる。
かつては3人で対応していた作業分野が新しい時代は1人で良くなる。
やがて、自動化によって、0人になる。
若い世代の優秀な経営者は、アウトソーシングとIT活用が上手い。
当然のようにアウトソーシングで自社の穴をカバーする。
ITテクノロジーを活用することが前提で、簡単に人間の仕事を増やさない。
だから、それほど多くの人を雇う必要がない。
薄利多売とネット販売
特に小売業の世界は変わった。
もはや、よほどの理由がない限り、店舗販売は勝てない。
品番が付与される商品は絶望的だろう。
最近は、開業当初から店舗を持たない小売業が増えた。
オフィスは、倉庫がメインでその隅に事務スペースがある。
さらに、製造スペースを追加して、製造と小売を両立している会社もいる。
商品を買う方も、実店舗の有無を意識しない。
行きつけのネットショップでリピート購入をし続ける。
これが、普通のことになってきた。
実店舗を持たないネット販売は、効率が良い。
都市部である必要はないし、地価も賃料も全てが安い。
人件費を含めて、店舗を運営する経費も不要。
ネットで集客することができれば、販売量は店舗販売の物理的限界を軽く超える。
薄利多売と相性が良い。
ネット販売専門の会社は、驚くほどスタッフが少ない。
人材厳選と高利益率化
人材を厳選して、高利益率を目指すのは、今も昔も同じだ。
しかし、現在はこの傾向が加速している。
まず、ネットを使ったコミュニケーションを普及し、業務の対応エリアが格段に広がった。
人材も全国から集め、各所に「サテライトオフィス(多くは各自の自宅)」を設置する会社も多く見かける。
固定電話、FAXは衰退し、最先端技術を使う人たちは、携帯電話(番号)すら使わなくなってきている。
携帯電話からEメール。
Eメールからメッセンジャー。
最近では、メッセンジャーアプリで通話をするし、会議もビデオチャットが普及してきた。
若い世代の経営者は、紙を使わない。
紙より、デジタルデータで送られることを望む。
データの送受信どころか、データをクラウド上で共有する仕組みを積極的に使う。
これらのことは、少しの通信費と引き換えに大きな経費削減を生む。
印刷費、交通費に加えて、移動時間を削減し、利益率が上がる。
移動時間やコミュニケーションのための時間を削減することは、高所得の人ほど恩恵が多い。
削減した時間を使って得られる利益が多いからだ。
つまり、人材を厳選し、高い給与を支払うことができるということになる。
逆に、このような会社は、営業担当が極端に少ない。
Webサイト、ネット広告、SNSなどで集客をすることが基本になっている。
若い世代の優秀な経営者は、物理的な労働力量で利益を上げようとしない。
大手企業の変化
一昔前は、大手企業は零細企業と取引をしなかった。
見向きもないし、仮に零細企業の商品・サービスに興味があっても、社内の検討会議で却下されたと思う。
最近は随分変わった。
大手企業の中でも、世代交代は進んでいる。
社内の検討会議は相変わらずだが、それでも零細企業と取引を許すケースが増えた。
取引どころか、良い商品やサービスを会社、もしくは事業ごと買収することも増えた。
しかも、商品やサービスが世にリリースされると、随分早い段階で買収しようとする傾向がある。
若い世代の経営者は、M&Aや事業売却に抵抗がない人が多い。
むしろ、それを一つのゴールとして目標にしていることも多い。
――― 現代、成功者と言われる人の多くは事業売却をした人
そんな構図に成りつつある。
大手は、事業を展開して拡大することに圧倒的な強みがある。
零細企業は、独創性のある事業を立ち上げることを目指す。
そんな二極化が着実に進んでいるように思える。
他にも、理由を挙げたらきりがない。
そのくらい、現代は事業の拡大を目指さなくても良い理由、目指すと辛い理由がある。
――― 個人(事業主)同士がチームをつくって稼ぐ時代
私としては、そんなイメージに成っていく気がしている。
サポートに感謝申し上げます。 執筆活動のクオリティアップに精進致します。