見出し画像

はるかのエッセイ【ぱんつ】

子供にとって、プールの時間は非常に心躍る時間である。

わたしもプールの時間は大好きであった。水着もお花柄でお気に入りだったし、空になった食器洗剤の入れ物で水鉄砲するのが何よりも楽しかったのを覚えている。

幼稚園では、夏になるとプールの時間が設けられた。園児は皆、それを楽しみにしていた。

ある日、プールの授業参観が行われるという旨のプリントが、自宅の冷蔵庫に貼られているのを発見した。大好きなプールの時間を、大好きな母と共有できることを知ったわたしは、嬉しくてたまらなかった。

念の為母に確認したところ、「もちろんいくよ」と言う素晴らしい返事を頂戴し、授業参観の日が待ち遠しかった。それから毎日母に、来て貰えるか確認し、水着は誤って捨てていないか、今日洗っても当日にはきちんと乾くか、入念に確認作業を行った。「後何回寝たらプールの日?」などと、今思えばなんて可愛いのだという質問を繰り返しては、何度聞いても変わらない残りの日数に耳を傾けた。

 そしていよいよプールの日が来た。
その日も抜かりなく、母に出席するかを確認し、わくわくとプールの時間を待った。プールの時間が始まると、プールサイドを何度も確認し、母が来るのを心待ちにしていた。

本当に来るのか不安に駆られながらも、数分後には母の姿を確認することができた。昔からプライドの高いわたしは、母に良いところを見せてやろうと、沢山あるプール用玩具を片っ端から使い、こんなことも出来るのだぞと視界の隅に映る母を猛烈に意識しながらも、そうでも無いふりをして遊んでみせた。
周りには、
「なんだこのでしゃばりは。」などと言う印象を与えたに違いない。嫌われたってよかった。活躍する姿を見せられるのであれば何だってすると思った。

 こうしていつもより二倍は体力を消耗するプールの時間が終わった。
このとき、水着の下にパンツを脱ぎ忘れていることにはまだ気がつかなかった。

着替えの途中、その最悪の状況に気がついた。もしもデロリアンが現れたら、あの時の表情を一番に観にいくだろう。
 びちょびちょになった情けないパンツを母に見せる訳にはいかない。わたしはこっそり先生に助けを求め、代わりのパンツを着用してことなきを得た。

 今日のプールでの活躍ぶりを褒めてもらいたく、パンツのことなど知らぬぞと言うような顔で家に帰ると、母はわたしの秘密を知っていた様子で、ヒョイと鞄から出し、物干し竿に干したのである。

 幼稚園の情報伝達力の恐ろしさと、情けない気持ちで押し殺されそうになった。

 その日の晩は、パンツの話で持ちきりとなった。

パンツは、「さあ笑え笑え」と言うような顔をして冷房の風に身を躍らせていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?