見出し画像

はるかのエッセイ【魔法使い意識】

わたしの通っていた幼稚園は、小さな広場があり、行事の際の待ち時間は、いつもそこで待たされた。

その日も何かの行事の前で、よく状況も分からないまま待っていた。これからのことなどさほど興味が無かったことは覚えている。

 このような待ち時間、周りの園児の会話に耳を傾けたり、何かを見つめては一人、想像に耽ったりして過ごした。

 小さな木の実を見つけては、埋めたら何が生えてくるだろうか。柿やリンゴの木が生えるだろうか。もしかするとお金のなる木で、神様が私にプレゼントしてくれたのではなかろうか。幼稚園児らしく夢を広げた。

 その日、わたしの目を奪ったのは、とても大きな枯れた落ち葉だった。当時はわたし自身も小さかったためか、大変大きく感じられた。世界一大きな葉っぱを拾った少女として
一躍時の人となれるかも?博物館から買取依頼が来て、大金持ちになれるかも?明日の新聞はわたしで持ちきりか?
 大人になれば、葉っぱ一枚で話を書く事は難しいであろうが、幼稚園児は面白いもので、一枚の枯れ葉から沢山の夢を広げることが出来た。
 妄想が妄想を生み、あれやこれやと考えるうち、自分に意識が帰ってきた。おかえり。
 唐突にアホなことを思った。

「あれ、わたし、息してたっけ。」

呼吸に意識を向けていないとき、もしかしたらわたしの呼吸は止まっていたかもしれない。これはかなりの人が一度は考えたかも知れないが、そんなことも知らず、世界初の無呼吸人間か、はたまた魔法使いなのではなかろうか。私の楽しい脳ミソは、とうとう自分自身を別のものにしてしまった。めでたい子供である。

 そのときから、何となく自分の中に、魔法使い意識が存在し始めた。今では、かなりの距離を詰めた人間には、自分が魔法使いであることをカミングアウトしてみたり、捜し物がすぐ見つかったときや、信号に一つも捕まえられずに目的地に辿り着いたときは、体から無意識のうちにしみ出る微量の魔法のおかげだと錯覚している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?