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時間マネジメント

時間は自由に使えない

「時間を自由に使っていいよ」と言われても、大抵は挫折する。
結局、自分の知っている心地良い時間を選んでしまい、冒険はしない。
日常的な習慣から考えずに時間を使ってしまうこともあるが、自分で羽目を外さないよう自主規制をかけていることもある。
それ以上に時間をどれだけ広く使えるのか、良くわからないことが大きい。

時間について決まり事があるとすると、与えられた時間が有限なことである。有限とはつまり、いつか死を迎えるということ。
しかし、寿命は何人たりとも知り得ないとかいって、そこから目をそらしているのが現状である。
確かに私は明日死ぬかもしれないが、様々な統計データから自分の寿命をある程度把握することができる。実際にそれをやってみると、終末の老いの様子が手に取るようにわかる。あくまで平均的なデータではあるが。

それに加えて、我々は他人の時間の使い方をよく知らない。単に就いている仕事の違いだけでなく、日常的な時間の配分も、人生の中での進路選択も、それぞれどのように意思決定されているのか深いところまでわからない。
そのことが、自分の時間選択の幅を狭めている。

例えば、転職は大きな出来事だが、自分のキャリア(蓄積された無形資産)を元手に、別の仕事を選択しているにすぎないと考えることもできる。転職した本人は自由を活かして大きな選択をしたと思っているかもしれないが、もし仕事以外の選択肢があったとすると、事情は変わる。
その人がそのまま歩むと、次の転機は「引退」と「死」であるが、どちらも自分が自由に選択できるものでない。

4レイヤーの時間

改めて、自由な時間選択を考えるために、思考のフレームを考えてみる。
それは4つの階層でできている。

一つは「日常的な時間」である。今日や明日をどう過ごすか?という際の時間の使い方であるが、未来を目的に現在を手段として過ごす「手段の時間」があり、また、現在に夢中になる「遊びの時間」がある。
この二つの時間は、仕事と遊びの時間であるが、アリストテレスが「キーネーシス」「エネルゲイア」と呼んだ正反対の時間である。
それに加えて「生きられる時間」という三つ目の時間がある。ハイデガーが「現存在」、細川亮一が「歩む時間」と表現した時間である。忙しい現代人は「生きられる時間」を使うことが、なかなか叶わない。うまくない。

二つ目は「仕事の時間」である。
どんな仕事を選ぶのか、そこでどんな時間を使うのかが問われる。
社会人になると、ほとんどの時間が仕事に投入される。ただ、ハンナ・アーレントは労働と仕事とを分けて考えた。「労働」は生命を維持するための動物的な営み。一方、「仕事」は世の中に残る耐久性のある物をアウトプットし、それを通じて世界を創造する人間的な営みである。
その「仕事」では、個々人がパフォーマンスを発揮した結果のアウトプットで評価される。
しかし、そこにはインプットを重視する別の評価もある。それが「蓄える時間」というレイヤーでの評価である。

三つ目「蓄える時間(無形資産)」である。
我々は仕事を自由に選べるわけではない。それは持っている知識・スキルである程度決まってくる。多くは教育期間に習得したものだが、日々仕事を通じても知識・スキルを獲得しており、それが次の大きなステージの選択につながったりする。
日々の無形資産の蓄積を怠ると、選択肢は縮まり、自由度が損なわれる。良い仕事は、アウトプットだけでなく、蓄えるというインプットでも評価する必要がある。
そして人生の「ステージ」を変えたければ、時間を遡ってそのステージに求められる知識・スキルなど無形資産の形成に時間を使っておく必要がある。

四つ目は「ステージ」という時間である。
年単位~10年単位の人生ステージのことで、一生フルタイム・ワーカーであれば、その仕事期間が一つのステージになる。そこでは当然、プロジェクトの達成や昇進や転勤などのドラマがあるが、共通の文化を持つプラットフォームであることで一つのステージと捉える。
『LIFE SHIFT』で提唱されている「インディペンデント・プロデューサー」や「エクスプローラー」「ポートフォリオ・ワーカー」といったのステージへの転身には、通常の転職とは異なる大きな企みがある。
一言でいえば、人生のベクトル(向き)を変えることであり、別の人生を歩むともいえる。人生100年時代になったからこそ可能な時間の選択である。

各レイヤーは、下層から上層まで、互いに関連しながら繋がっている。
「日常の時間」の使い方次第で「蓄える時間」で貯まる無形資産の量と質が変わる。例えば、「手段の時間」を巧く使えば「生産性資産」が蓄積されていく。

自分が経験してきたもの以外にも、大小様々な時間の使い方があることがわかる。何となくこれを察知するだけで、節目節目での選択の幅が広がるし、同じ選択をするのにも決意が違ってくる。

(丸田一葉)




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