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患者のストライキ

ほとんどあらすじのない、概念小説です。夜も眠られぬほど頭にきたのでこんな書き方になります。医療の根本的なありかたについて。

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日本。医療が進んで進んで…。ほとんど労働運動のなくなった日本でストライキが起きた。しかも労使ではなく患者のストライキだ。患者がすべて医療を拒否した。全国の八割の患者だ。ケーブルをはずし呼吸器を外した。麻酔を拒否した。ストライキのその瞬間から苦しみで病院は包まれた。患者が次々と死に始めた。が、患者はストライキをやめなかった。

医療者たちは麻酔注射をしてでも医療を受けさせようとしたが、患者の団結は固く死者は次々と増えていく。老害などという言葉を使うもの、高齢者の治療に嫌気がさしていたものはひそかに喜んでいたかもしれない。
それにしても治療をできない医者たちが呆然としていた。あるいは患者と激しい議論をしたり暴力さえ使っている姿に日本人たちは唖然とした。医療者のありのままの姿が露骨に見えはじめた。

「私たちは医療に命乞いをしなければならないと思っていた。それがいったん決意をしたらこんなことができるなんて」
「権力に立ち向かうなんて日本人とは縁がないと思っていた。デモもしない日本人がこういうことをするなんて信じがたい」

命より必要なことを実現するために結びあった、患者たち、すなわち人間の非人間的な行為者への要求は次のようなことであった。
・私たちを実験材料にするな。医療の知識のための道具にするな
・私たちの恐怖を利用してコントロールするな。
・私たちの心理を利用して飼いならし、屈辱を与えるな。
・医者などが自分のために勝手な治療をするな。
・やっていることを隠すな。
・すべてを公正に判断する医療者以外が大多数を占める医療管理組織を作れ
・非科学的なことを政治や医療界の利益のために患者に押し付けるな
・患者の痛み苦しみや死を自分の喜びに使うな
・すべて治療は複数の利益相反のない医師の協議で決定せよ
・上下関係で支配される教育機関を廃止せよ
・目の前の患者のためよい治療をしようと努力する医療者を排除するな
・権益、政治的利益、自己の支配欲などのために患者を利用するな

患者が命乞いをしにいくのを待ち受けて、苦痛を与え自らは利益を得るような病院が多くなりすぎて、人口ははなはだしく減少し始めた。命を救うという言葉とはうらはらに医療が健康を損ね、生きる意欲を損ない、誕生率さえも大きく下げるようになった。
だから患者は自分たちが本当は命乞いではなく、よく生きることを目指しているのだということを自覚し、生命の発展を阻害している医療に対して自らの生命を賭して抗議を表明することにした。

「ははは勝手にやればいい」「どうぞ患者の自由だよ」「老害がどんどん減っていく。良いことだね」「自ら命を絶つ。面白い現象だ。人口の自動調節だな」そううそぶく医師もいることを国民は見ていた。
そして患者のストライキの趣旨に賛同し自らも命を賭して声を上げ始めた少数の医師たちに「医師会」などの団体は非難を浴びせ、待遇をはく奪するのであった。これはいままでずっと繰り返され続けてきたことであった。
産婦人科の医師たちの一部は「いやなら帰れ」「気持ちを尊重するなどと面倒なことを言うな」これもまた今までずっと繰り返されていたような言葉を浴びせ続ける医師が多いのに世界は驚いた。
「実験はあたりまえだ」「内臓をとったってたいしたことはない」「わからないんだから進歩のために実験手術は当然だ」医師たちの本音もどんどんわかってきた。
「新しい治療者の会」が小さい病院を全国に次々と作り始めた。
・何が起きているか隠さないオープンな医療
・患者が作り運営する病院 医師の上下関係の消滅
・多数の医師が合議して治療を決めるしくみ
・患者への配慮ではなく患者から学びとる医療へ
・身体を自ら生き成長する乗り物のように尊ぶ医療に

長い道のりであったが、悪魔を去らせ治療者が医療を行える世界への転換は、自分の命よりも大切なことだと理解した多数の「患者」の決意、そして犠牲によりはじまった。名もなき人々、いつも名もなき人が世界を変える。
この医療の転換は他の何にもまして社会そのものに根本的で巨大な一撃を与えた。
身体という自分の乗り物、自分そのものである乗り物のことを大切にすることを理解した人々は教育においても「生命学」を必須教科として小学~高校まで週2度の授業を行い、謎めいていた医学の基本は身に着け、多少のことは自分で治療ができるようになった。ここでも医師の権益は大幅にけずられるのだが、そのために知識を与えようとせず、医療資源も独占させるた時代は間違っていた。身体を慈しみ、ぎゃくに身体で大胆な冒険をする。人生を広げる、世界を広げる、多様性も理解する、見かけが違う人々がいることもふかく理解し恐れなくなる。差別がなくなる。争いがなくなる。
医療というものがいかに多くの問題の源になっていたことか!

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