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【バトン連載】私の移住ストーリー vol.1|村上あす美@石垣島


私が石垣島に移住した理由

電車に乗っているときや雑踏を歩くときは、イヤホンで街の音をシャットアウトしていた。そうしないと、余計な情報に飲まれたり、要らぬ罵声を聞いてしまうことになる。私は電車に揺られながら、イヤホンで耳を塞いで、SNSにあがってくる美しい海の写真や動画をみて、海の生きものたちのことを考えていた。

心はそこになかったのだ。だけど、仕事も住まいもある東京という地に、誰が与えたのでもない固定観念で縛られていた。

雑踏を避けて東京の夕暮れを歩く

2019年、インドネシア旅行をきっかけに、スキューバダイビングを始めた。閉塞感でいっぱいのコロナ禍で、時々伊豆に出かけて海に潜ることが私の癒しになっていった。ダイビングに慣れてくると、「もっと海のことを知りたい」と思うようになり、オンラインセミナーを受けたり、子どもの頃大好きだった自然ドキュメンタリーばかり観るようになった。生きもの図鑑が大好きだった幼少期がよみがえるみたいだった。

ダイビングがコロナ禍の癒しだった

そのうち、石西礁湖という日本最大のサンゴ礁が八重山にあることや、サンゴ礁には海の生きものの4分の1が依存して暮らしているということを知った。そして、今後10年間で世界の9割のサンゴが死滅するという予測があることも知った。サンゴ礁に関する研究成果は日々変わっていくが、それでも私たちが今、10年後、20年後の未来がどうなるかのターニングポイントにいるということは間違いない。

私にもなにかできることはないか。

居ても立ってもいられなくなった。海洋ゴミの多くが陸から流れ出ると知り、犬の散歩のついでにゴミ拾いを始めた。洗剤やシャンプーは生分解性の高いものに変えた。石西礁湖も、東京湾も同じ海。つながっている。

Instagram経由で、石垣島でサンゴ保全をしている方に連絡を取り、活動のお手伝いをさせてもらえることになった。調査や打合せで何度か八重山を訪れ、この地域の自然に魅了された。

2022年8月のサンゴ礁調査

しかも、ここで出会う人たちは、みんな本当に魅力的だった。一つの仕事や活動に縛られない人が多いので、肩書がよくわからない人が多い。まちなかで私設図書館というなんかニッチで実験的なサービスをやっているみちくさ文庫の仁くんに出会ったときなんか、「やばい、石垣最高におもしろい」とワクワクした。そういう出会いがたくさんあった。

そしたらいよいよ住みたくなってきて、物件情報を見るのが日課になっていた。

みちくさ文庫ではいろいろな人に出会う

移住するためにクリアしなければならなかったこと

探していた住まいの条件は、「オーシャンビューでペット可」。
そんな最高な物件ある⁉って感じだけど、巡り合った。3件フラれて、4度目の正直だった。東京からの申込だから、内見はできなかったけど、すぐに決めた。

住まいが決まったら、覚悟も決まった。収入面でもキャリア面でも悩みぬいた末に、思いきって会社を辞めた。東京の家は一軒家で借地という特殊事情があったので、すぐに手放すことはできなかった。でも、石垣の住まいが決まったタイミングで、大学時代からの親友が期間限定でうちに住んでくれることになったので、ダブルで賃料を払わずに済んで助かったし、その後無事に家を手放すこともできた。これはもう、色々な偶然と、友人・家族に助けられたというほかない。

今はそれぞれ活躍している、まちづくり会社の元同僚たちと

それから一番心配だったことは、犬と一緒に飛行機に乗ること。飼っていたポメラニアンのしらたまちゃんはてんかん持ちで、発作がでないように投薬でコントロールしていた。気圧の変化に敏感だから、飛行機に乗せることで発作が出てしまう可能性があった。万が一命にかかわることになったらどうしよう…と、心配ばかりがつのる。船で行けないかどうかも調べたけど、現在石垣島に船で行けるルートはない。
獣医さんに相談すると「石垣島ですか!いいですね~!」と、思いのほかさらっとした反応に肩透かしをくらった。搭乗前の投薬について助言をもらい、できるだけ暑くない早朝のフライトを選んで、ついにその日を迎えた。

石垣空港に到着し、荷物台の横でしらたまちゃんを待っていると、スタッフの方がクレートを大事に抱えて持ってきてくださった。中を覗くと、ゆったりと片腕に寄りかかり、重役のような貫禄で座っているしらたまちゃん。あーーーー、よかった。無事一緒に石垣に来られた。


石垣空港に到着した、愛犬しらたま

移住してみて、今おもうこと

2023年7月で、移住して1年が経った。最初の半年はアルバイトしながら、環境保全の活動に関わらせてもらっていた。日々の中でどんどん出会いがつながり、友だちもできて、あっという間に楽しくなっていった。もちろん全部がうまくいったわけじゃないけど、今はこの環境が心地よいし、働き方とか人との関わり方も、東京にいた頃とは違う気づきで溢れている。移住して本当によかったと思っているし、今があるのは出会ったすべての方のおかげだから、心から感謝している。

やえやまファームさんと企画した有機パイン収穫体験ツアー

今、何をしているかというと、チャレンジ石垣島というイベント&コワーキングスペースでコミュニティマネージャーをやらせていただいていて、施設の広い空間を活かしてANYO HIROTAさんの展覧会をキュレーションさせてもらったり、まちのコインまーる事務局のメンバーとして、この月刊まーるにも関わらせてもらったり、サステナブルアイランド石垣という環境団体で「島から海にいいことしてる人」の取材記事を書かせてもらったり。あと、たまたまお手伝いさせてもらったウエディングの現場で出会った方と結婚したりも。人生なにがあるか、本当にわからない。

旧盆の行事アンガマーのウシュマイ(お爺)・ウミー(お婆)とチャレンジの仲間たち

転職に悩んでいた20代の頃、先輩から「1つの扉を閉めると10の扉がひらく」という言葉をもらったことがある。移住に際して、大きな扉から小さな扉まで、たくさんの扉を閉めて石垣にやってきたので、その分と言うべきか、この1年で無数の扉がひらいた。

あ、東京が嫌いになったわけではないので、一応追記。やっぱりホームだって感じるし、会いたい人もたくさんいる。東京の夕焼けは大好きだし、雑踏に紛れる感覚も今となっては嫌いじゃない。

次のバトンは…

というわけで、連載を次の方へバトンタッチします。EVトゥクトゥクのhop onという事業をスタートしたばかりで、現在は西表島在住のりょうくん。りょうくんが八重山に来た理由が、これまた独特。彼は本当に面白い視点で世界を見ているなぁと思います。それではりょうくん、よろしくー!

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この記事を書いた人

村上あす美
2022年7月、東京から石垣島に移住。展覧会制作・アートマネジメントの仕事に10年以上携わる。その後、千葉県松戸市のまちづくり会社で、地域の歴史文化に基づいた実践的なエリアマネジメント手法を学び、様々なプロジェクトを担当。現在は、チャレンジ石垣島コミュニティマネージャー、サステナブルアイランド石垣ライター等の活動をしている。

チャレンジ石垣島
https://challenge.kayac-zero.com/

サステナブルアイランド石垣 陸×海 Reef-Land プロジェクト取材記事
https://www.stbisg.com/reeflandproject



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