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野生動物の威厳、そしてその世界

こんにちは。maruです。

昔々、取材でアラスカに行ったときのこと。ヘリコプターに乗って、空から氷河を遊覧する機会に恵まれました。

碁盤の目のように整備された道路が交差するアンカレッジの街を飛び立つと、本物の大自然がもうすぐそこにありました。

氷河の裂け目のクレパスや、窪地にできた水たまりは、目のさめるような青い色を湛えていました。深い深い紺碧の青。どこまでも澄み切った群青の青。こんなにも鮮やかな色彩が、人の手を加えられることなく自然に創り出されたものであるということが、信じられませんでした。

岩壁近くを通り過ぎた時、ドールシープの群れに遭遇。切り立った崖のような岩場に張り付くように佇む20頭ほどのドールシープの群れ。その中の一頭が、私たちの乗るヘリコプターを睨みつけるように対峙していました。

山々の静寂を打ち破るかのように轟音をあげながら進むヘリコプター。そのヘリコプターに向かって、大きな角を誇示するかのように頭をもたげ、目線を逸らすことなく、こちらを睨み続けていました。その姿があまりにも凛々しくて、眩しくて、こちらも目を離すことができなくなりました。

あの大きな角で、この鉄の塊を制することができると考えているのか、群れに対する危険性を測っているのかはわかりません。ヘリコプターが通り過ぎ、群れとの距離が十分に保たれた後、そのドールシープはようやく私たちから目を逸らし、仲間の間に紛れていきました。

ドールシープの威厳に満ちた姿を目にしたことで、野生動物の世界にほんの少しだけ、触れられたような気がしました。そして、人がつくりあげた世界のほかにも、このように多様な生き物たちが棲息する世界が存在することに、改めて気づかされました。

せわしなく過ぎる日々のなか、時に閉塞感を感じることがあります。満員電車の息苦しさなかで、融通の効かない組織への苛立ちのなかで。そんな時、あのドールシープの凛々しい姿を思い出すと、どこか安堵した気持ちになり、私の中でぴーんと張った糸を少し緩めてくれる気がします。いまこの瞬間も、目の前にあるこの世界のほかにも、人智の及ばない世界が存在しているということに、安らぎを覚えるのです。

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