ぼくのわたしのジェンダーアイデンティティ
少年がいた。
少年はフードのついたコートを羽織り、海辺で佇んでいた。
列島の最南端に夕日を見に来た。
ここは、ぼくにとって、原点に戻れる特別な場所だ。
少年の心は揺れていた。
少年の内の少女がむくりと目を覚ます。
ぼくがわたしに戻るとき、わたしはぼくを誇らしく思うだろうか。
それとも、コンプレックスに潰されてしまうのだろうか。
あの有名な歌い手みたいに堂々としていられるかな。
いいや、なんたって、同じ人間なのだ。
ぼくだって胸を張りたい。
わたしと共に生きていきたい。
告白するよ。
自分がノンバイナリーだってことを。
ぼくはわたしの内に、わたしはぼくの内に、ずっと住んで生きていたんだ。
君は冷たい視線を向けるかな?
それも覚悟の上だけど。
でも、自分のような人間をノンバイナリーと呼ぶことを知ってからは、ぼくはぼくらしく、また、わたしらしく清々しく息が吸えたんだ。
あの有名な歌い手さんに感謝しなくちゃ。
これまでずっと苦しんできたんだ。幼いころから、ずっと。
生きづらさを感じていた。
自分の性を二極化し、「She」と呼ばれることに拒絶を抱き、「He」であることにも混乱を来していた。
どちらかで生きようと、生きるものだと、もがいていた。
でも、どちらもぼくではなく、わたしでもない。
また、どちらもぼくであり、わたしでもある。
ぼくの強い情動に押し流されることもあれば、わたしの慈しみに心をほぐされることもあった。
つねに、どちらも解放してあげたいと思っていた。
もう、うんざりなんだ。
だから、自分をぼくでもなく、わたしでもなく、自分と呼ぼうと思う。
すべてを理解してほしくてここに記したわけではない。
ここに記念碑を建てたかっただけなんだ。
だから、列島の最南端まで来たんだ。
そこがふさわしい場所に思えてね。
自分は、ノンバイナリーなんだ。
「She」でも「He」でもない。
そう、複雑なことじゃあないだろう?
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