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小説  5月のスキャット

 私は、知らないのよ。本当に、そんなこと。だってそうでしょ? あの子があんなことしているなんて思いもよらなかったのよ。

  たまたま、たまたま見たの。お金を盗んで、そう。だから、私はそれを、伝えたの。知り合いの人に、ね。直接言ったわけではなくて、ただ、ふっと漏らしてしまったの。そしたら、めぐりめぐって、彼女が、やったってばれたの。

 私は、悪意があったわけではなくて、ほんとに、ぽろりと。そうなの、私たちは、友人だし、親友なの。だから、辛かった。盗みは、よくない。それはそうでしょ? 彼女は友達、でも、それとこれとは違うものなの。
 
 うん、彼女が、部費を無くしてしまった焦っていたのは聞いた。茶道部の部費なんて、ほんとにわずかなものだと思う。いくら、2万? 3万? でも、部員分だと結構な額になる。

 それは、そうだよね。10万くらい? それを無くしたら焦るかもね。でも、だからって、人のお金を、盗んではいけない。そう、習わなかった? そうでしょ。それが正しい。正しいことをしなければいけない。それが、この社会のシステムなのよ。
 
 彼女の、恋人も、残念ね。恋人が盗人だなんて。ほんと、人間なんてコインの裏表で、どっちもコインだけど、あの笑顔だけ見せられれば、ほんとにころりと言っちゃうよね。
 彼女はスタイルもいいしね。経験あるのかな? どうでもいいや。イケメン捕まえて、人生最高潮ってところで、こんなことになるなんてね。

 不思議なやっぱり、人生何があるかわからない。上り坂もあるし、下り坂もあるってことね。彼女は自分からさ、坂を転げ落ちていったんだから。それは、彼女の責任よね。

 恋人も、残念ね。私、前から彼のこと良いって思っていたの。背も高くて、スポーツもできてさ。ね、彼女にはもったいない。そう、思わない? 今度さ、一緒に買い物行こうよ。

 最近お金も入ったの。バイト代がさ。お金は、手に入ったら使わないといけないって。そう、テレビで言っていたよ。経済を回さないとね。

 日本人は貯金ばかりしているって、お金も貯めるし、ストレスも溜めるし、日本人って、そういうところあるかもね。内側に籠ってさ、ねちねち攻撃してさ。彼女も部費12万円失くすなんてついてないよね。ほんとうに。

 まあ、失くしたことよりも、それをごまかそうと人のお金盗もうとしたのがいけないんだけどね。ん? お金の金額? え、私そんなこと言った。ああ、大体の計算よ。そんな額なんて知らないよ。私は、事件にはかかわってないから。

 事件なんて言い方? 彼女に悪いかしら。とにかく、私たちは彼女の味方でいましょうよ。彼女、学校やめさせられるかもしれないって、そんなことになったら、私もなんだか気分悪いわ。まあ、私は、関係ないけどね。私、この前彼女にこう言ったの。

 お金失くしても大丈夫だから、きっとどうにかなるから。でも、どうにかしてその補填をしないといけないのは間違いがない。3組の、上原さんは、金持ちだからお金持っているかもって。でも、盗むわけにはいかないからねって。笑って言ったの。そしたら、あんなことになっちゃって。
 
 もういい? しゃべりすぎた。ほとんど意味のない会話ね。スキャット? いやいや、そんなんじゃないよ。放課後の雑談。楽しいよね。

 ここの会計私持つよ。別に、いまはとても良い気分だから、これくらいならおごってあげる。

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