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短編小説に重ねるマイストーリーもしくは自己投影

noteでフォローさせて頂いているたいたけさんが電子書籍デビューをされた。すごく喜ばしかった。が、それ以外の感情も私の中に押し寄せた。それからだ、私の過去の思い出がよみがえってきたのは。すこしそれにお付き合い願いたい。

キックボクシングのプロデビューが決まった。同じ練習生。彼はとても真面目でプロを目指していた。当たり前のように私は祝福した。だけど私はそこには行けない。うちの団体は女子の興行はないから。
どうせまともに相手にしてもらえないことは承知で一緒に練習していた。私などはスパークリングの相手にもならないし、何より女だ。男が本気になれるわけがなかった。
それでも好きだから続けた。女というだけで扱いが違うことの悔しさをパンチとキックにぶつけた。

仲間のプロデビュー戦、会場は後楽園ホール。サポーターにまわる私はノルマのチケットを一緒にさばいたり、会場では仲間のデビューを飾る紙テープを事前に芯を抜いてテープ巻き直したり、会場でサポーターに配り歩いたり何から何まで仕切りをやった。そうやって皆に支えられデビューが華やかになる。
試合が始まる。練習通りにやれば勝てるはず。手に汗を握る思いで試合を見守り始めた。
出だしは悪くない。このままうまく試合を進めていけば大丈夫。そんな母のような思いになりながらいつしか私は試合のストーリーにどっぷりつかり始めた。

私はアルバイトを始めたかった。なぜなら私の家業である惣菜屋にとっても外で修行するのは必要と感じていたから。もちろんアルバイト代で洋服やらを買い、自由に使えるお金も欲しかったからだ。
履歴書の空手初段が効いたのか、生まれて初めての面接は簡単にとおり、晴れて念願のデパートの有名惣菜店で働くことができた。
私はわざと忙しい店を選んだ。忙しいからこそ学びが多いだろうと感じていた。本当に忙しかった。私ひとりだけでもだいたい四時間だけで七万円は売り上げた。
私はここが大好きだった。子供が生まれるまで九年も働いたのだ。多分それがなければ今も働き続けたかもしれない。そこで出逢うさまざまな人達が個性的だった。関西出身のノリは良いけど気分屋の店長、つかえないと蔑まれる社員、間を取り持つ副店長、声張上げまくりのノリノリの男子アルバイト達、売り場の狭さゆえに気を使いまくる女子の店員達、とにかく毎日が忙しいゆえにぶっ壊れながらも、気持ちはアゲて仕事をしていた。そんなおかしなテンションのコミュニケーションがより私達を団結させた。
飲み会もしたし、オールでカラオケもした。私たちは仕事のためだけには生きなかった。いくら身体が疲れようとも若さゆえ、自由に生きることは忘れなかった。

私は週四回のアルバイトのうち、二回は走って帰った。家まで五キロぐらいはあると思う。トレーニングの意味もあるが、町の夜景を感じながら大好きな音楽をMDに入れて、それを聞きながら音にあわせて走るのが楽しかった。
繁華街のネオンと人混みに揉まれながら私は決まった自動販売機でブラックコーヒーを買い、集中力を高めながらゆっくりとそれを飲んで走り始めの高台の幹線道路まであるいた。そんな毎回のルーティンは私にとって居心地のよい時間だった。

あれから時はずいぶんと進む。私は子供の英検の試験の付き添いのために懐かしい場所に訪れた。会場のそばには私の母校があった。
廃校になってから10年は経つだろう。母校の跡地がどうなっているか気になり、子供が受検中に訪れた。
なんと今も変わらずそこには母校があった!私はすぐさま私の過ごした彫刻室と庭の見える場所まで駆け出した。そこには何も変わらずあの時のままの風景がそこにはあった。
日だまりの中の彫刻室の外通路、愛想の悪かったチャボ達の小屋、警戒心の強いウサギ達の小屋、干し柿を吊るしてあった麻紐、琵琶の木、猿の腰かけが生える切り株。
全てが私の愛した風景。涙がこぼれそうになった。中に入りたい。どうか内側からこの風景を眺めたかった。できるならばあの時の瞬間を私の中でよみがえらせたかった。教わった先生や仲間の生徒達、あのかけがえのない時をもう一度味わいたかった。
もしここに同級生男子でも一緒にいたら不法侵入していたかもしれない。私ひとりだったためそんな勇気はなかった。
私は胸が張り裂けんばかりの思いをそこに残し母校をあとにした。

試合は終わった。フルラウンド戦い抜き、勇者は爽快な戦いっぷりを見せてくれた。額にキラリとにじむ汗、戦いに悔いのなさを感じた。
私は感動した。いつの間にか試合にのめり込み、自身のストーリーと重ねあわせた。そうだ。他者の戦いを応援することは自分も一緒に戦っているのだ。しばらく忘れていた感覚を思いださせてくれた。


小説を読んで私は日々の喧騒から離れ、忘れていた自分自身を思い出させてくれた。
ありがとう、たいたけさん。皆さんにもオススメしたい。

https://note.com/taitake/n/n911b67d7629f

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