最終回.タヒチ、カリフォルニア


朝目が覚める。もうサッカー部の練習はない。県大会を最後に引退したのだ。だから無理に起き上がる必要もなくなった。毎年そうなんだが、夏休みは少し曜日感覚が鈍っている。スマホを開いて思った。


「あ、」





今日は夏祭りがある。今日か。高校生活で最後の夏祭りだ。しかし、天気予報は曇りマークが出ている。チラッと窓の外を見ると確かに天気は曇っている。また毎年恒例クラスで集まって夏祭りに行くという予定になっているが集合時間は夕方の5時だ。その前に3時くらいにフミとタジマと3人で集まってちょっと遊ぶことになっている。



それまでにはまだまだ時間がある。無理に起き上がる必要は無くなったが、


「おい!朝ごはん!!」




と居間から僕達を呼ぶ親父の声がした。

そして家族で朝食を食べる。


「研一、今日どうするの?」

と母親に聞かれ、今日の予定を大まかに伝えた。すると、




「進路はどうするんだ?」


と間髪をいれずにお父さん。


話の流れ的に今じゃないだろうと、


「うおおん、、、決めるよ。」煙たそうにと返した。


煙たそうに返したが、正直心の中ではもう進路は決まっていた。


介護の専門学校に行こうと決めている。ほぼ確定でそう思っている。近々、いいタイミングで家族にも友達にも話すつもりだ。だが、今じゃないだろう。



朝食を食べて自分が使った食器をサッと洗い、また布団に潜り込んだ。





目を閉じた。県大会のことがあったけどなぜか今は気持ちがスッキリしている。後は友達にイジられるだけだな。どんと来いだ。自分でも不思議だが、ほとんど引きずっていない。イジられている自分を想像して少しニヤけながらまた眠った。



12時くらいに目が覚めた。両親は仕事や用事で家にいなかったので、弟の裕太と冷蔵庫にあるものを出してつまんだ。思春期の二人の間には特に実のなる会話はなかったが、テレビを見ながら昼のバラエティ番組を見て、二人で笑った。


「お兄ちゃん、進路どうするの?」


「介護の専門学校に行く。」


「へ〜いいじゃん。向いてると思うよ。頑張れ。」


「おん。ありがとう。」


少しだけ、実のなる会話をした。その後、支度をして駅に向かった。



外はしっかりと曇っていた。約束の時間前に到着したら、もうフミとタジマが待っていた。


「うい〜〜。」


「よい〜〜。」


「おい〜〜。」


3人で集まるのは楽しいということは分かりきっているが、その喜ばしさとはウラハラに気だるい挨拶を交わす。するとタジマが、


「どうする?メシ食った?」


フミが、


「食べた!でも食いたい!」


そして僕が、


「ぶらつこうか。」


3人で駅近のアーケード内を歩いた。




アーケード内にあるワッフルケーキ屋さんに寄った。よく店の前を通っていたが、買ったことはなかったので内心ワクワクしながら、それぞれワッフルケーキを買ってアーケードを抜けたところにあるベンチに座って食べた。


もちろん、進路の話になる。自分が介護の専門に行くということを話し、フミが東京の大学に進学することを聞き、タジマがアメリカに留学することを聞いた。





留学!?そんなヤツが身近にいるとは思ってもいなかった。つくづくタジマはかっこよくてスマートなやつだなと思った。


フミはまだ少し先のキャンパスライフを想像して、目をキラキラさせていた。相変わらずだ。


県大会のことには触れてこなかったことには少し驚いたが、それがまた二人の優しさなのかもしれない。もしタジマに


「最後の試合、出させてもらえなかったらしいじゃねーか!忘れられてたらしいな!」


と言われた時に対して、


「試合中はずっと隠れ身の術を使ってたからねぇ!!!」


と返しの言葉を密かに考えていたのだが。






そのベンチで約2時間3人で話し込んだ。特に大きな声は出さず、他人に迷惑がかからないように3人で笑い合った。良い時間だ。







そして、クラスのみんなと集まる時間が近づいて、神社の入り口まで移動した。


「またこの匂いだな、懐かしい。」


出店の何かを鉄板で焼いた煙の匂い、樹の匂いがした。夏の終わりが近づいてるような匂いだ。




急にジ〜ンとした。急にこれまでの色んなことに感動した。急にだ。




陽が傾き始めて、あたりの色は次第に青くなった。神社の入り口に近づくとそこにはクラスの数人が集まっていた。なぜかすごく懐かしくも感じた。大島やタジマの彼女や吉田さんもいた。どうしたのか集まりが良かった。




フミが「お〜い!」と声をかけようとした瞬間、空から大量の雨が降ってきた。ゲリラ豪雨だ。大量の雨粒が地面を弾いた。なんとかみんなのところに近づいたが、全員で雨宿りができるところを探した。



なんとか、軒下を見つけてみんなで入ったが、もうほぼ全員がずぶ濡れ状態だった。祭りどころではない。


祭りを楽しもうと来ていた他の人、家族連れもザワザワ。


「どうする?」


「う〜ん。」


誰かがスマホを開いて、


「マジかぁ。」と言った。



雨はしばらく止まないらしい。靴の中まで濡れてみんなテンションが下がっていた。すると、電柱についてる拡声器みたいなものからアナウンスが流れた。



今年の花火は中止とのことだ。その知らせを聞き、軽くその場がどよめいた。一向に雨は止む気配がない。


30分以上待ったが雨は止まず、出店のおじちゃん達が次第に店を閉め始めた。もう夏祭り自体が中止のようだ。そしてタジマがいう。


「今日はもう解散しよう!また別の日にでも集まろう!」




色んなところからため息が漏れていた。そしてみんなで走ってコンビニに駆け込み、それぞれ傘を買って、トボトボと駅まで歩いた。みんな落ち込んだ様子で軽くバイバイをした。


「またね〜。」





全身濡れてるし体が重たい。ゆっくり家に帰ろうとした時に、立ち尽くしている大島を見つけて声をかけた。


「途中まで一緒に帰ろう。」


大島は「うん!」と言った。


二人で歩いてる時に、ズブ濡れの僕のスニーカーから変な音が聞こえる。


ジャボッ、ジャボッ




その変な音に二人で少し笑った。残念だねという話から、また進路の話をした。大島は地元の大学に進学するそうだ。僕の進路を話すと、すごく応援してくれた。そして少し沈黙が続いた。






恋愛の話にはならない。僕は大島が好きだから。もう恋愛の話題を切りだすより僕が、大島に気持ちを伝えるだけだった。もう後はそれだけだった。でも無理に切り出す必要はないと思ったし、大島にはそう思わせてくれるものがあった。すると、大島が





「今度、二人で遊ばない?」


と言ってきた。言われた時、驚いた。そして何より嬉しかった。その気持ちがバレないように


「お、うん!いいよ!遊ぼ!」


と返した。




バレないようにとは思っていたが、その返事の仕方には弾けるような嬉しさが溢れ出ていた。どこ行こうか?という話題が待っていると思うと、心がすごく高揚した。その後の帰り道は絶え間なく2人で話し続けた。






まだ高校3年だ。自分にはまだ早いと思っていたが、その瞬間、その一瞬からすごく幸せだなという気持ちが溢れた。


嬉しさとポジティブな良い感情ばかりだった。この3年の夏を通して色んなことがあった。良い感情や悪い感情があったが、今この瞬間が一番だ。




3年間の夏、おばあちゃんのこと、県大会のこと、最後に夏祭りで大雨が降って中止になったこと、もう全部ひっくるめて解放された気がした。高校3年の夏に最後にこんな気持ちになれて幸せだなと思った。



急にだ。急に気持ちが晴れた。




帰り道が終わって欲しくないと思った。大島に一個、提案をした。


「帰りにスーパー寄って帰らない?」


すると、


「うん!いいね!」


と返ってきた。帰りに僕のバイト先のスーパーに寄った。大島のお父さんが店長をしているスーパーだ。もうその頃には雨は弱まっていた。


アイスを買おうと店内のショーケースまで見に行った。その時に、



「おう!」と声がして、そこには大島店長がいた。この状況が照れくさたったが、そこはしっかりと挨拶をした。そのあとアイスを選んでいる時にふと思った。




まぁ家が近所ということもあるだろうが、しょっちゅう大島由実はこのスーパーに来ている。一体、何を買っているんだろう?



そんな疑問が生まれた。そして聞いてみた。


「ねぇ、大島ってさ、ここでいつも何かってるの?」


すると、こう返ってきた。



「タコ!」


「え?」


「タコだよ!タコ!こっちきて!」


と大島に手を引かれて鮮魚コーナーの端っこに連れてこられた。


「私、タコが好きなんだ!今日は買わないけど!!見て見て!」


鮮魚コーナーの棚にはパックに詰められ綺麗に並べられたタコ達。産地の違うタコが2種類並んでいた。タヒチ産とカリフォルニア産。大島はタコを目の前にハイテンションだ。



その後、2人でアイスを買って、二人で近くにあったベンチに座った。そして大島はタコの良さ、素晴らしさを楽しそうに僕に話してくれた。




高校最後の夏の夜、2人の笑い声と鈴虫の声が静かに響いていた。







おわり


タヒチ、カリフォルニア


読んでくれた方へ

ありがとうございました!下手くそですみません、めっちゃ勉強になりました!またの機会に!


















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