2.初期のスマホ
サッカー部にも新一年生が何人か入ってきた。去年もいたような、中学生時代に何かの選抜メンバーに選ばれたみたいな生意気なやつが何人か入ってきたり、去年にはいなかった中学からサッカーを始める初心者が1人入ってきた。
フミと同じだ。生意気なやつのことはどうでもいい。この初心者のことが少し気になっている。名前は中越。見た目は少しぽっちゃりしていて、髪型は坊主がだいぶ伸びた感じの髪型。身長は160くらいで、顔は丸くて雰囲気がコロンっとしている。
コロンっという表現を使ったのはアイスの実にしか使わないと思っていた。
眉毛がしっかり生えているタイプで、肌は色白。特にお手入れをしなくても肌が割りと綺麗なタイプだと思う。
サッカー部の練習で来ているウェアは、どこのブランドかも分からない。どこかのスポーツ店で売り出しているオリジナルのブランドに違いない。
履いているスパイクはもらい物らしく、見た感じ、サイズが少し合ってないようだ。中越君とはまだほとんど話した事はないが、なんか愛らしい雰囲気を纏っている。
そして、ほとんど話したことがないのに、練習がキツくてもなんとか辞めないで欲しいなという気持ちになる。
フミは同じ中学生からサッカー部デビューという同じ境遇というのもあり、中越くんには積極的に話しかけているようだ。
自分も話してみたいが、3年生である威厳を保つという変なプライドからか、話せずにいる。いや、人見知りをしているだけかもしれない。
不安だろうに、教えてあげたいことはたくさんある。ボールの蹴り方や、礼儀、どんな友達と仲良くすれば高校生活を楽しめるかまで。
今日の練習も汗だくで終える。もうどこからどこまでが熱中症かわかわないくらい汗をかいている。まぁ、毎年ことで、でも体は強くなっている。身長も173センチくらいまで伸びた。
コンビニで買った一番安い制汗スプレーを使う。着替えが終わって帰る。
その時、後ろから「あの、、、、」という声がした。
振り返ると、声の主は中越君だった。
中越君は軽く周りを見渡して、少し小声で、
「町田さん、ナンコクスーパーで働いてますよね?」
少しギクっとした。まさかこのタイミングで言われるとは。しかも中越くんに。
部活動をしている生徒はアルバイトをしてはいけないという高校のきまりを破り、内緒でアルバイトをしていることを知っているのはフミ、タジマ、大島由美、かつての僕のマドンナ吉田さんだ。そこに中越くんが加わるとは意外だ。
ギクっとはしたが、とりあえず僕も周りを見渡して、彼の口止めを試みる。
「あの〜、内緒でアルバイトしてて、あの〜誰にも言わないで欲しい。」
すると、中越くんが
「僕もバイトしたいです!」
と言ってきた。意表をつかれた。
「え、あ、バイトしたいんや。なんで?」
「家、が貧乏なので!」と明るく笑顔で言われた。
その即答加減と屈託のない笑顔に、少し気持ちが明るくなった。
「わかった。店長に話してみるけど、絶対に誰にも言っちゃダメだぞ。」
「はい!!もちろんです!!」
そう言って中越君と照れくさくラインを交換した。中越の持っているスマホは初期のスマホだった。
そして、その日、すぐに店長にその事を伝えると快く快諾してくれて、メッセージで中越に連絡した。
返ってきた返信の文面は喜びに溢れていた。
後輩と呼ぶのは、先輩風を吹かしていそうであまり口にしたくないが、この高校に入って初めて話したいい思える後輩だできた気がした。
そして思った。
「ったく。これから教えることがいっぱいだなぁ〜。」
つづく
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