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【感想】きことわ(芥川賞)

 最近とりあえず学校の図書室においてある芥川賞を受賞した本を読んでいる。今回はきことわを読んだ。芥川あるあるの独特な雰囲気のある本だった。
簡単にあらすじについて言及しておくと、貴子(きこ)と永遠子(とわこ)という少女の時に7歳差の二人が貴子の母の春子の死をきっかけに疎遠になったのちに40歳ほどになって再開する(だけ)といったものだ。別にどんでん返しがあるわけでもなければホラー的要素があるわけでもなく、難解で独特な表現で構成されているわけでもないしかといって平易で読んでいて飽きが来るわけでもない。
それでもこの本には何とも言えない雰囲気が常に漂っているし、読後感としても面白い本だったというよりはいい本だったということに落ち着くものであった気がする。
別に私は読書感想文を書くためにこの本を読んだわけではないしこの本について深い考察を得たいという欲求もそこまでないのでこれをもう一度読むつもりはないしこの文章を書くにおいてもうきことわの細部についてほとんど記憶にないのだがそれでも記録に残したいとはおもったのである。
本の中でかなり触れられているのが時間の可逆性である。時間の不可逆性について不可逆性に言及しないながらもその不可逆性の持つ儚さを題材にしたといっても過言ではないような本が世の中には多数ある(と私は思う)しその不可逆性こそが世の中の人全員が何となく心に持っているノスタルジック的な精神であり、そこに哀愁を強く感じる日本人の感性にマッチしているのだろう。それでもこの本は過去と現在と未来、そして現在の中でもたくさんの別の現在がまるで交わっているように感じるような描写が多々ある。過去を思い起こすのではなく過去と現在がともに存在しているのだ。それがこの本においての一貫した時間に対する立場であり、それこそがこの本の神髄であるのだと感じた。べつにこの本はタイムスリップするわけでもなければ過去を変えるわけでもない。それでも我々はまるで過去に戻れるというわけではないが、過去と現在と未来が同時に存在しているような描写を通して時間の不可逆性に関して無意識に意識させられ、時間そのものについて自分の中で考えさせられるというのがこの本の良さであり何とも言えない読後感であるのだと思う。

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