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胸糞!ワンマンすぎるトップと歪んだ組織によってハラスメントが蔓延し、本業とまったく関係のない雑用に忙殺される主人公が不憫でならない実話ベースの『アシスタント』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:68/89
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆

【作品情報】

   原題:The Assistant
  製作年:2019年
  製作国:アメリカ
   配給:サンリスフィルム
 上映時間:87分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし

【あらすじ】

名門大学を卒業したばかりのジェーン(ジュリア・ガーナー)は、映画プロデューサーという夢を抱いて激しい競争を勝ち抜き、有名エンターテインメント企業に就職した。

業界の大物である会長のもと、ジュニア・アシスタントとして働き始めたが、そこは華やかさとは無縁の殺風景なオフィス。早朝から深夜まで平凡な事務作業に追われる毎日。常態化しているハラスメントの積み重ね……。しかし、彼女は自分が即座に交換可能な下働きでしかないということも、将来大きなチャンスを掴むためには会社にしがみついてキャリアを積むしかないこともわかっている。

ある日、会長の許されない行為を知ったジェーンは、この問題に立ち上がることを決意するが――。

【感想】

これは社会で働く人にはぜひ観ていただきたい映画でした。『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(2022)を観た人には特にオススメしたいですね。

<搾取されまくる主人公>

ハッキリ言ってこの映画、ものすごく胸糞悪くなります。その理由はジェーンが働く会社のクソっぷりですよ。主人公のジェーンはジュニア・アシスタントとして働いているんですが、その業務内容が明らかにおかしいんですよね。本来の業務が何なのかは明示されてはいないものの、劇中で描かれる彼女の仕事は誰が見ても「それ、あなたのやることじゃないでしょ」というのが一目瞭然です。

あらすじにはエンターテインメント企業とありますが、メインは映画でしょうね。その映画に関わる業務って、興行収入をまとめるのみで、あとはひたすら雑用なんです。会長や先輩たちの出張とあらば、飛行機やホテル、ドライバーの手配を行い、清掃員がいるはずなのに会長の部屋やミーティング後の会議室の掃除をやらされ、お茶出しや会長の常備薬の発注も行います。さらには、会長の奥さんから夫への不満の電話の対応までも。しかも、その後に会長本人から「余計なことをしてくれたな!」と怒りの電話が来て謝罪メールを出すハメに。「出しゃばった私が悪かったです。次はあなたを失望させないようがんばります」と。そう書けって先輩から言われるんですよね。。。確かにアシスタント業務っていうまるっとした括りの中に入らないとも言い切れないものもありますが、、、明らかに労働搾取と捉えられるようなことばかりで、観ているこっちが腹立たしくなるほどでした。

<諸悪の根源は会長>

ジェーンはせっかく有名大学を出て、憧れの映画業界に足を踏み入れたのに、蓋を開けたらこんな雑用の毎日です。会長のワンマンもひどく、彼が気に入った女の子が新しいアシスタントとして入ることも。その彼女は遠いところから来ているから、わざわざホテル住まいまでさせる始末です。ジェーンからしたら、自分の存在意義がまったく感じられない職場ですよ。それでも彼女は、ギリギリで精神状態を保ちながら、毎日毎日雑用を懸命にこなしています。誰よりも早く会社に来て、誰よりも遅く帰る日々を繰り返しながら。

そんな歪んだ業務に勤しむ日々を淡々と描いているのがこの映画です。セリフもBGMも少なく、一見退屈な内容に思えますが、本作は数百にも及ぶ労働者に対して行われたリサーチとインタビューによって形作られているのでジェーンの置かれた状況っていうのは実際に起こっているわけですね。『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』という映画がありましたけれど、本作の会長はまさにあの映画におけるハーヴェイ・ワインスタインとほぼ同じかと。そして、この会社がクソみたいな環境になっているのも、すべてこの会長のせいだと思います。ジェーンと同じ部署の先輩2人も、おそらくこの状況はよくないだろうなと思ってはいるものの、面倒なことはジェーンに押し付け、自分たちは問題の根本解決には触れません。そんなことをしたら、会長の逆鱗に触れ、会社を追い出されるばかりか、業界にもいられなくなる、それほどまでに会長の力が強いんだなっていうことを密かに感じました。産業医?みたいな人も相手にしてくれませんし、トップが腐ってると組織ってこうもダメになるんだなって思いました。本作では、現実に起こっていることを、解決されそうにない閉塞感を、とてもリアルに描き出しています。だから、映画として面白いというよりは、描かれている内容が興味深いって感じでしたね、個人的には。

<そんなわけで>

日々きちんと仕事をしている人なら、より一層胸糞悪くなり、怒りがこみ上げてくるであろう映画だと思います。夢や情熱を持った人間をここまでコケにできる組織ってあるんだなと思うと同時に、きっと日本にも同じようなことをしている会社があるのかもしれないって考えると心が痛みます。。。


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