見出し画像

ハリウッド映画界で絶大な力を持った男の悪行を暴き、# MeToo運動の火付け役となった『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:2/6
  ストーリー:★★★★★★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:She Said
  製作年:2022年
  製作国:アメリカ
   配給:東宝東和
 上映時間:129分
 ジャンル:サスペンス
元ネタなど:ノンフィクション『その名を暴け―# MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』(2022)

【あらすじ】

ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)とジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが数十年にわたって続けてきた性的暴行について取材を始める。しかし、ワインスタインは過去に何度も記事をもみ消してきたことが判明。さらに、被害にあった女性たちは示談に応じており、証言すれば訴えられるため、声をあげられないままでいた。

問題の本質は業界の隠蔽構造だと知った記者たちは、調査を妨害されながらも信念を曲げず、証言を決意した勇気ある女性たちと共に突き進む。そして、遂に数十年にわたる沈黙が破られ、真実が明らかになっていくー。

【感想】

これは現代を生きる人にぜひ観てもらいたいなと思いましたね。世界的な潮流を見せる# MeToo運動のきっかけとなった報道の一部始終を知ることができますから。

<この映画が興味深い3つの理由>

本作は、いわゆる真実を追求していく報道系の話で、その手の映画は過去にもたくさんあるんですが、この映画が特に興味深い理由は以下の3つなんじゃないかなって思いました。
①# MeToo運動の火付け役となったこと
②その影響が今なお続いていること
③煌びやかなハリウッド映画界で長年続いていた悪行の終焉を描いていること
要は時事性が高く、それも人々が注目しやすいショービズの世界で起こっていたってのがポイントなんですよね。

<ハーヴェイ・ワインスタインって?>

きっと大昔から、そしていろんなところで、性的嫌がらせを受けてきた人は多いと思います。これまで泣き寝入りしかできなかった被害者が、ようやく声に出して言える兆しが見えてきたのは、この報道がきっかけとなっているんじゃないでしょうか。ハーヴェイ・ワインスタイン(1952-)による性的暴行事件。で、それが誰なんだって話なんですが、彼は映画会社ミラマックスを作った人物で、『パルプ・フィクション』(1994)や『恋におちたシェイクスピア』(1998)、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(2001-2003)などの大ヒット作を世に出した人物なんですよ。他にも有名作品がたくさんあるので、映画界への貢献という意味では、ものすごく大きな影響を与えたのは事実でしょうね。

<ワインスタインの犯した罪>

映画界で絶大な力を誇る一方で、いや、絶大な力を持っているからこそ、彼は裏で目を覆いたくなるような悪事を行っていました。セクハラです。いや、セクハラ以上ですね。セクハラって日本語にすると性的嫌がらせというちょっと曖昧な言葉になってしまいますけど、彼がやったのは暴行や強姦などの犯罪行為です。これを自分の部下や数々のハリウッド女優に繰り返し行ってきました。その上、示談金として7桁ドル(日本円だと億単位)を支払い、秘密保持契約書を結ばせたんです。これにより、被害者たちは誰にも事実を話すことができなくなりました。むしろ、話したら逆に訴えられるという状況に陥ってしまったんです。こうして誰も声を上げられない状況に甘んじて、ワインスタインは再び女性に手を出していたというわけです。性加害者が守られ続ける法のシステムにもやるせなさを感じるところですね。

しかも、ワインスタインはハリウッド映画界において絶大な力を持っているんです。被害に遭った女性たちもまだ若く、パワーバランス的に10:0という関係性の中、声を上げたくても上げられなかったという事情もありました。そんなことをしたら自分がこの業界にいられなくなりますから。かろうじて彼の要求をはねのけた女優たちも、獲れるはずだった役をもらえなかったりと不遇の扱いを受けていました。ワインスタイン、実に卑劣極まりない男ですね。

<見どころは記者2人の信念の強さ>

そんな状況を打開すべく、2人の記者が事実調査に乗り出すんですが、これがなかなか進まないんですよ。そもそも被害者たちは秘密保持契約で何も話せませんし、これまで何回も助けを求めたのに何も変わらなかったことから積極的に話そうとしません。それに、過去の屈辱を話すということは、心の傷を再びこじ開けるような気持ちにもなるんじゃないでしょうか。みんな訴えたい気持ちはあるんですけど、物理的にも気持ち的にも難しい状況なんですよ。何とか話を聞けたとしても、実名は出さないでと言われたり。実名があった方が報道としての信憑性がグンと上がるんですけどね。

でも、これ以上被害を増やさないためにも、業界の闇を晴らすためにも、ミーガンとジョディはワインスタインと関わりのあった人たちと連絡を取り続け、証言の裏取りを徹底しました。これね、相当大変だと思いますよ。。。映画では2時間で収めちゃっていますけど、多くの人へのコンタクトや聞きづらいことの取材、資料の洗い出し、調査の妨害や脅迫など、その労力は尋常ならざるものだと推測できます。それを踏まえた上で、終盤で彼女らの努力が実る瞬間には思わず涙が出ました。

<そんなわけで>

性犯罪の真実を追求するスリリングな内容な上に、ドキュメンタリーっぽい雰囲気もあってとてもリアリティを感じられる映画でした。映画業界の闇を暴く作品を、同じ映画業界が作り上げるという構図も面白いですね。不当に嫌な思いをすることのない世界に少しずつできたらいいなと思いました。

ちなみに、ミーガンを演じたキャリー・マリガンは『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)という映画で、性犯罪者に復讐する主人公という役どころを演じていて、今回と近からずとも遠からずといった感じがしました。また、ジョディを演じたゾーイ・カザンは、『エデンの東』(1955)の監督を務めたエリア・カザンの孫というサラブレッド。以上、映画トリビアでした(笑)


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?