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ただの"世にも奇妙な物語"になってしまっていた『ばるぼら』

【基本情報】

製作年:2020年
製作国:日本
 配給:松竹

【個人的順位】

鑑賞した2020年日本公開映画ランキング:140/180
 ストーリー:★★★☆☆
キャラクター:★★★☆☆
    映像:★★★☆☆
    音楽:★★★☆☆

【あらすじ】

ある日、作家の美倉洋介(稲垣吾郎)は新宿駅の片隅でホームレスのような酔払った少女ばるぼら(二階堂ふみ)に出会い、思わず家に連れて帰る。

大酒飲みでだらしないばるぼらに、美倉はなぜか奇妙な魅力を感じて追い出すことができない。彼女を手元に置いておくと不思議と美倉の手は動きだし、新たな小説を創造する意欲がわき起こるのだ。彼女はあたかも、芸術家を守るミューズのようだった。

その一方で、異常性欲に悩まされる美倉は、あらゆる場面で幻想に惑わされていた。ばるぼらは、そんな幻想から美倉を救い出す。魔法にかかったように混乱する美倉。その美倉を翻弄するばるぼら。いつしか美倉はばるぼらなくては生きていけないようになっていた。

ばるぼらは現実の女なのか、美倉の幻なのか。狂気が生み出す迷宮のような世界に美倉は堕ちてゆくのだった。

【感想】

手塚治虫先生の漫画が原作です。2巻しかなかったので漫画を読んでからこの映画を鑑賞しました。正直、「うーん。。。」という感じでしたね。

キャラクターはかなりハマってたんですよ。二階堂ふみはばるぼらにピッタリだったし、渡辺えりのムシューモシュネーとかまんますぎて。これはいいキャスティングでした。まあ、美倉は稲垣吾郎よりも合ってる人はいそうな気はしたんですが。。。もう少し渋い感じの人が合ってるかなーって。てか、日本人が黒いサングラスかけると、どうもX JAPANのToshIか佐村河内にしか見えないんですよね。ちょっとそのイメージが拭えず。。。(笑)

で、問題は物語の方なんですよ。あらすじにも書いた通り、もともとはばるぼらという不思議な少女を側に置いておくことで、創作意欲がわいて、やがて彼女なしでは生きられなくなる美倉の転落ストーリーを、いくつかのエピソードを通じて彼の心理変化を楽しむものだったんです。異常性欲者という設定は、原作の方でも割とすぐ関係なくなっていたのでいいんですけど、作家の苦悩やばるぼらとの関係性が細かく描かれていたので、とても読みごたえがありました。

ところが、映画にすると2時間という短い枠に収めることになるので、どうしても省かれてしまう部分が出てきちゃうんですよね。それはもう仕方ないことですし、原作モノの宿命だと思います。なので、仕方ないというのは百も承知なんですけど、原作の持つばるぼら自身の現実なのか幻想なのかあやふやな存在感や、それに翻弄されてボロボロになっていく美倉の心理描写が失われているように感じました。

原作2巻分をうまくまとめきれたのは見事だと思うものの、映画だとただの"世にも奇妙な物語"にしかなっていなくて、うまく世界観が伝わって来ませんでした。

原作では、ばるぼらは魔女なんじゃないかっていう疑惑の下、魔女に関する歴史や考察がきちんと書かれてあって、彼女に対する畏怖みたいなのものを感じ取れもしたんですが、映画だとそういうのはなく、「結局彼女は何だったんだ?」で終わってしまったのが残念です。まあ、魔女のくだりを入れたら2時間じゃ終わらないと思いますけど(笑)

なので、これは漫画読まないとよくわからない映画で、とはいえ、僕はその漫画の方を強く推したいです。ちょっとテキスト多めの内容ではあるんですが、時事性のない物語なので、今読んでも充分に楽しめます。むしろ、ある程度年齢を重ねた人の方が楽しめるかもしれません。

そして、改めて思います。手塚治虫先生のすごさを。

僕は手塚治虫の世代ではなかったので、父親が持っていた漫画をつまみ読みしたぐらいで、実は最初から最後まで全部読んだ作品はないんです。しかし、いくつか読んできた上でこの漫画を読むと、もう"漫画の神様"ここに極まれりだなと感じますよ。

『ばるぼら』は作家の人生を描いているので、文学作品から引用したセリフも多く、これを作る上ではその知識も必要となるでしょう。でも、手塚治虫の描いた漫画を思い返してみると、扱うジャンルの広さに驚きます。

『鉄腕アトム』でSFを描き、『ブラック・ジャック』で医療モノ、『ジャングル大帝』で動物モノ、『三つ目がとおる』で冒険モノ、『ルードウィヒ・B』で音楽モノを描いているのですから。

ひとりでこんなにたくさんの作品を描いて、名作として後世に残せるってすごすぎじゃないですか?今の漫画家でそんな人いますかね。。。ここまで多くの作品を描いてどれもヒットさせるって。。。もちろん、手塚治虫先生自身だって、人気が低迷していた時期もあったようですが、それにしても圧倒的だと思います。

彼は亡くなる直前まで、昏睡と覚醒を繰り返しながら鉛筆を持って、「頼むから仕事をさせてくれ」と、漫画を描き続けていたというエピソードを知ったとき、もう神様どころじゃない、漫画という概念そのものなんじゃないかと思いました。

手塚治虫先生の作品は今後時間をかけてすべて制覇したいと思います。


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