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絶望のどん底にありながらも決して希望を捨てなかった山本の生きる執念に感服した『ラーゲリより愛を込めて』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:79/188
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

  製作年:2022年
  製作国:日本
   配給:東宝
 上映時間:133分
 ジャンル:伝記映画、ヒューマンドラマ
元ネタなど:ノンフィクション『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(1989)

【あらすじ】

第二次大戦後の1945年。そこは零下40度の厳冬の世界・シベリア。わずかな食料での過酷な労働が続く日々。死に逝く者が続出する地獄の強制収容所(ラーゲリ)に、その男・山本幡男(二宮和也)はいた。「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」絶望する抑留者たちに、彼は訴え続けた――。

身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに収容された山本は、日本にいる妻・モジミ(北川景子)や4人の子どもといっしょに過ごす日々が訪れることを信じ、耐えた。彼は周囲の人々を分け隔てなく励まし続け、多くの捕虜たちに希望を与えていった。

終戦から8年が経ち、山本に妻からの葉書が届く。厳しい検閲をくぐり抜けたその葉書には「あなたの帰りを待っています」と。たった1人で子どもたちを育てている妻を想い、山本は涙を流さずにはいられなかった。誰もがダモイの日が近づいていると感じていたが、その頃には、彼の体は病魔に侵されていた…。

死が迫る山本の願いを叶えようと、仲間たちは驚くべき行動に出る。戦後のラーゲリで人々が起こした奇跡。これは感動の実話である。

【感想】

実在した人物である山本幡男を題材にした映画です。劣悪な環境にありながらも、生きる希望を捨てなかった彼の姿が感動的でしたね。。。時代劇を除けば、邦画で伝記映画って珍しいんじゃないかと思います。個人的には、著名人よりも、こういう一般人の伝記の方が好きですね。

<シベリア抑留について>

当時の歴史的背景について少し書いておきます。第二次世界大戦が終わりに差し掛かる頃、ソ連が満州国へ攻めてきて、そこにいた多くの日本人が捕虜となり、労働力としてこき使うため、シベリアを含むソ連各地へ強制連行されました。その数は57万人以上もいたそうで、そのうち5.8万人が過酷な労働環境により死亡。その中で個人が特定されているのは4万人ちょっとだそうです(ウィキペディアより)。

<人望の塊のような男、山本>

その連行された中にいたのが、今回の主人公である山本幡男です。演じた二宮和也さんの演技もさることながら、山本自身の人となりが何よりも印象深いですよ。文化系の人間だからか、一見ひ弱そうには見えます。実際、もともと体は丈夫ではなかったそうです。ところが、その精神力は尋常じゃありません。戦争が終わったのに自分のことを「一等兵」呼ばわりする者には食ってかかり、劣悪な環境の中でも生きる希望を捨てない強さがありました。すべては家族に再び会うためです。

何よりも彼は優しいんですよ。収容所の中ではどんな人にも分け隔てなく穏やかに接し、みんなが希望を捨てないよう常に励ましていました。自分だったら、合わない人とは極力関わらないようにしてしまいそうなんですが、山本は自分のことだけでなく、みんなが生きて帰国できることを考えていたんですよね。最初はそんな山本を嫌っていた相沢(桐谷健太)も、次第に心を開き、病に倒れた彼をきちんと病院に連れて行ってもらうようストライキに参加するまでに変わりました。山本の人望の厚さがうかがえるエピソードですね。

<もう少し山本の活動を観たかった>

ただ、映画での山本の描かれ方は、とにかく「希望を捨てずに生きろ」の一点張りだったのが、ちょっと物足りないかなという感じもしました。実際には、文芸誌の製作や壁新聞づくり、映画鑑賞会などの文化活動を広く行い、帰国への希望を呼び戻す工夫をしたそうなんですよ。もちろん、それらも「希望を捨てずに生きろ」の一環ではあるんですが、もう少し彼の活動について知りたかったってのはありますね。

<演出の粋な計らい>

個人的に、エモい演出だなと感じたのが寺尾聰さんの起用です。実はこの作品、1993年にフジテレビでドラマ化されており、そのときに山本を演じたのが寺尾聰さんなんですよ。残念ながら配信されていないようなので、そのドラマは観れていませんが、前任者への敬意が表れていてよかったなと思います。もちろん、寺尾聰さんが今回演じた役はまったく別の人で、おそらくこの映画のために新しく追加された設定だと思うんですが、なかなかに感慨深い役どころなのでぜひ注目していただきたいです。

<そんなわけで>

戦争が題材になってはいますが、中身としてはどんな辛い状況でも決してあきらめない1人の男の生き様を描いています。その姿がまわりに伝播して、彼の意志をしっかり後世に受け継ぐことができたという流れは、どんなときでも希望を捨てずに生きた方がいいという、いつの時代にも通ずるメッセージですよね。「あきらめたら、そこで試合終了だよ」という有名なバスケ部監督の言葉がありますが、まさにそれを体現したような形です。「かつてこういう日本人がいた」という事実だけでも知れてよかったと思える映画だったので、歴史の勉強としても有意義なんじゃないかと思います。


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