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ピアノに生きピアノに潰されたピアニストに必要だったのは「まわりからの承認と愛」だとわかる感動作『シャイン』

【個人的な満足度】

「午前十時の映画祭14」で面白かった順位:5/9
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:Shine
  製作年:1996年
  製作国:オーストラリア
   配給:KUZUIエンタープライズ
 上映時間:105分
 ジャンル:伝記、ヒューマンドラマ
元ネタなど:音楽家「デイヴィッド・ヘルフゴット」(1947-)
公式サイト:https://asa10.eiga.com/2024/cinema/1309/

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
デイヴィッド(ジェフリー・ラッシュ)は、少年時代から厳格な父親(アーミン・ミューラー=スタール)の下、ピアノの英才教育を受けていた。

コンクールでの演奏が評価され、イギリスの王立音楽院に留学する話が持ち上がり、デイヴィッドは父の反対を押し切って、家出同然でロンドンに渡った。

レッスンに打ち込むデイヴィッドは、コンクールでラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」に挑戦し、見事に弾きこなしたが、その後、心を病んでしまう。

【感想】

午前十時の映画祭14」にて。1996年のオーストラリア映画。町山智浩氏の解説付きでの鑑賞でした。主人公デイヴィッドを演じたのはジェフリー・ラッシュ。映画好きじゃないと名前を聞いただけではピンと来ないかもしれませんが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(2003-2017)でバルボッサ役を務めた方と言えば伝わるでしょうか。彼の統合失調症を発症した演技に感服する作品でした。

<伝記映画らしからぬドラマチックな展開>

この映画はデイヴィッド・ヘルフゴットという実在しているピアニストの伝記映画(本人は現在もご存命です)。伝記映画って事実から逸脱できないこともあってか淡々と進むことが多いんですが、この映画に関してはデイヴィッドの置かれた環境と彼の歩む人生、そして奏でられるピアノの曲が素晴らしく、とても刺激的な映画でした。

<子供の可能性をむしり取る父親>

デイヴィッドの人生を語る上で外せないのが毒親すぎる父です。デイヴィッドは独学でピアノを学んだ父から手ほどきを受けて類稀なるピアノの技術を見せつけるも、優勝以外は認めないという厳しさゆえか、演奏を楽しんでいるようには見えませんでした。とはいえ、幼い頃は親の言うことを聞くしかないので、ひたすらピアノに打ち込んでいるんですが。やがてデイヴィッドはその才能を認められ、アメリカやイギリスの有名な音楽学校からの誘いを受けるも、父親がすべて拒否。まるで息子の人生は自分の人生であるかのような態度に、デイヴィッドの可能性がどんどん狭められていきました。

父親に対しては「なんて横柄なやつなんだ!」と憤りを感じますが、彼は彼でホロコーストで両親を亡くしている過去があるため、「家族は常にいっしょにいるべきだ」という考えも理解できなくもないんですよね。また、映画では描かれていませんが、実際はデイヴィッドには甘えん坊なところ(後述する精神病の前兆?)があり、それを心配したっていう話もあるらしいです。デイヴィッドの家族はこの映画における父親像があまりにもひどく、事実と反していると批判しているという話も。

<精神を病んでしまうデイヴィッド>

結局、デイヴィッドは父の反対を押し切ってロンドンの王立音楽大学に進み、ひたすらピアノの練習を続ける毎日を過ごします。天才的なピアノの技術は日々の絶え間ない鍛錬によってしか生まれないということがよくわかる設定ですね。その後、コンクールにおいて超難関とされるラフマニノフの『ピアノ協奏曲第3番』に挑戦し、見事に弾き切ったものの、その直後に統合失調症で倒れ、以後は精神病院に収容、ピアノ演奏を禁じられたまま10年以上を過ごすことに。病気の発症理由は明らかにされていませんが、幼少期から続く父親からの抑圧が原因なのかなと疑いたくなります。ちなみに、映画では触れられていませんが、史実としてはデイヴィッドは20代前半の頃に一度離婚しており、その後から精神が不安定になったとか。

<大切なのは楽しむ心なんだろうか>

捨てる神あれば拾う神もあると言いますか、デイヴィッドは精神病院で知り合った人や映画冒頭で迷い込んだレストランの従業員らに助けられ、やがて占星術師の女性と結婚(現実には再婚?)します。日常生活ではとても手のかかる彼ですが、天才的なピアノの技術は健在で、父親の呪縛から解き放たれた後は楽しそうにピアノを弾く姿が印象的でした。特に、終盤のリサイタルでは演奏後に会場からスタンディングオベーションを受ける光景を見て涙を流しており、「この人に必要だったのはまわりからの承認と愛」だと感じましたね。

<そんなわけで>

ひとりの天才ピアニストの半生を描いた伝記映画ですが、毒親からの呪縛と解放という流れが刺激的でした。なお、実際の演奏シーンは、音はデイヴィッド本人のものですが、弾いている指はジェフリー・ラッシュのものだそうです。彼は14歳までピアノをやっていて、今回の撮影のために数十年ぶりに練習をしたとのこと。ピアノはやっておいた方が役者人生においては役に立つことの方が多いのではと思いました。

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