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【鑑賞注意】大災害の中で唯一残ったアパートで独自の秩序が出来上がっていく様子に、ユートピアなのかディストピアなのかいろいろ考えさせられた『コンクリート・ユートピア』

【個人的な満足度】

2024年日本公開映画で面白かった順位:1/2👑
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★★★
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:Concrete Utopia
  製作年:2023年
  製作国:韓国
   配給:クロックワークス
 上映時間:130分
 ジャンル:パニック、スリラー
元ネタなど:なし

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
世界各地で起こった地盤隆起による大災害で一瞬にして壊滅したソウル。
唯一崩落を逃れた皇宮(ファングン)アパートには、居住者以外の生存者たちが押し寄せていた。

救助隊が現れる気配は一向になく、街中であらゆる犯罪が横行し、マンション内でも不法侵入や殺傷、放火が起こりはじめる。危機感を抱いた住人たちは、生きるために主導者を決め、住人以外を遮断しマンション内を統制することに。臨時代表となったのは、902号室のヨンタク(イ・ビョンホン)。職業不明で頼りなかったその男は、危険を顧みず放火された一室の消火にあたった姿勢を買われたのだった。

安全で平和な“ユートピア”になるにつれ、権勢を振るうヨンタクの狂気が浮かび上がる。そんなヨンタクに防衛隊長として指名されたのは、602号室のミンソン(パク・ソジュン)だ。妻のミョンファ(パク・ボヨン)はヨンタクに心服するミンソンに不安を覚え、閉鎖的で異様な環境に安堵しながら暮らす住民たちを傍目でみながら生活をしていた。

生存危機が続くなか、ヨンタクの支配力が強まったとき、予期せぬ争いが生じる。そこで目にしたのは、その男の本当の姿だった………。

【感想】

極限状態に陥ったとき、人間の本性が表れる……まさにそんなことを目の当たりにする映画でした。なお、本作は災害による地盤隆起の描写があるため、現在の日本の状況を鑑みて、鑑賞に当たっては注意が必要かと思います。とはいえ、災害が主題の映画ではなく、あくまでも極限状態における人間の在り方ではあるんですけど。

<さすが韓国映画と思わせる世界観>

アクションやパニック系の映画においては、やはり韓国はアジアの中でも群を抜いているかもしれませんね。今回も地盤隆起のおぞましい映像や荒廃した都市の光景など、強烈な視覚的インパクトの描写がとてもリアルでした。それに加えて、振り切った感情表現が上手な韓国の役者たち。これはもう見ごたえ抜群の組み合わせですよ。本当にハリウッドに引けを取らない世界観はさすがだと思いました。

<常に他人には親切にしておきましょう>

今回は未曽有の大災害の中で唯一残った皇宮アパートが舞台となっています。季節は冬で気温も氷点下。外にいるだけで凍死してしまう寒さです。生き残った人々は食糧と暖かさを求めて皇宮アパートに集まってきますが、当然すべての人を受け入れる余裕はありません。救援隊もいつ来るかわかりませんしね。そこで住民たちは新たなリーダーの下、多数決によって自分たちを守るために住民以外の避難民をすべて締め出すことを決めます。ただ、避難民を締め出す理由はもうひとつあるんですよ。今回の避難民たちの多くは、ドリームパレスという高級マンションの人々で、常日頃から皇宮アパートの人たちを見下していたんです。「そんなやつらまで助ける義理がどこにある!」という心理になるのも頷けます。そんな日頃の鬱憤も締め出しに拍車をかけているでしょうから、こういうのを目にすると、他人には親切にしておいた方がいいなと思いますね(笑)思わぬ形で自分に返って来ることになるかもしれませんから。。。

<徐々に変わっていくヨンタクと住民の心理描写が面白い>

避難民に対して「出ていけ」とは言うものの、当然反発も起こります。「俺たちに凍死しろっていうのか!」と。ついには取っ組み合いにまで発展しますが、住民たちが一丸となって何とか追い出しに成功します。頭から血を流しながらも精一杯がんばったヨンタクに対して住民たちの信頼は一気に高まります。この一件で、半ば強引にリーダーにされたヨンタクの気持ちに変化が訪れました。当初は頼りなく、自己主張もほとんどなかったので、まわりに流されるだけだった彼でしたが、住民からの賞賛を浴びることに気持ちのよさを感じ、徐々に権威を振りかざすようになっていくんです。防犯隊や食糧調達班、配給班、医療班などチームを分け、限られたリソースを有効活用し、アパートを住みよい場所へと変えていきます。それはまるでひとつの独立国家を築き上げていくようでしたね。住民の多くもこの環境に慣れてくると、部外者たちをゴキブリ呼ばわりし、自分たちが選ばれた人種かのように振る舞い出します。外の世界と断絶された閉鎖的な空間に身を置くことで、常識やルール、価値基準なんかもどんどん独自変化していくことに興味深さを感じました。生きるか死ぬかの瀬戸際という極限状態になると、人って何かを捻じ曲げてでも自分たちの行いを正当化していくものなんですかね。

<ヨンタクの秘密が波乱の火種に>

ところが、尺が半分まで来たところで物語の流れに変化が起きます。ヨンタクの回想シーンから、彼にまつわる大きな秘密が徐々に明らかになり、パニック映画からスリラー映画へと様相が変わっていきます。大災害の中で人々がどう生きていくかというだけでなく、その秘密があることでもうひとつの楽しみ方もできる二段構造は秀逸でしたね。ここはネタバレできないので、ぜひ劇場で観ていただければと。

<そんなわけで>

大災害の中で起こる様々な人間ドラマを楽しむ映画ですが、いろいろ考えさせられました。自分たちを守るために他者を排斥するのは、正しいかどうかはさておき、理解はできます。こんな状況ですからね、助け合いの精神なんて綺麗事でみんな自分のことで精一杯でしょうから。しかし、そうやって作り上げられた居場所は果たしてユートピアと言えるのでしょうか。部外者を締め出し、閉鎖的な空間の中で築き上げられていく独自の秩序。どんどん横暴化していくヨンタクに支配された皇宮アパートは、人によってはディストピアに映るかもしれません。最後に外の世界と触れ合ったミョンファは特にそう感じたのではないでしょうか。映像も内容も見ごたえアリなのでオススメの映画です。


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