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親友からいきなり絶交宣言されたとき自分ならどうするかを深く考えた『イニシェリン島の精霊』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:11/14
  ストーリー:★★★☆☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆

【作品情報】

   原題:The Banshees of Inisherin
  製作年:2022年
  製作国:イギリス
   配給:ディズニー
 上映時間:114分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし

【あらすじ】

本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリック(コリン・ファレル)は長年友情を育んできたはずだった友人コルム(ブレンダン・グリーソン)に突然の絶縁を告げられる。

急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーン(ケリー・コンドン)や風変わりな隣人ドミニク(バリー・コーガン)の力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。

美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。

【感想】

第95回アカデミー賞で9ノミネートされた話題作ってことで鑑賞しました。正直、予告を観た時点ではアート寄りの作品の印象を受けたので、自分が好きなジャンルではないと思ってたんですよね。だから、観てもそんなにハマらないだろうと。ところが、ところが、いざ観てみるとストーリーはわかりやすく、キャラクターもぶっ飛んでいた上に、テーマが身近だったのでとても楽しめました。

<親友からの突然の絶交宣言>

これまでの人生を振り返ったときに、仲の良かった友達の態度がいきなり変わったっていう事態に直面したことある人、もしかしたらいるんじゃないでしょうか。まあ、ほとんどの場合、そういうときって明確な理由があると思うんですけどね。例えば、片方が裏でもう片方の陰口を言っていたことが本人にバレたりとか。メールやLINEで言ってはいけないことを誤爆してしまったりとか。中高生ぐらいだったら、恋愛絡みだったりすることもあるかもしれませんね。自分の意中の相手と仲良くされて嫉妬しましたみたいに。

この映画も、パードリックがある日突然コルムから絶交を宣言されるという状況を描いているんですけど、その理由がなかなかにトリッキーです。なぜなら、パードリックには何の落ち度もないから。だから、彼がコルムからいきなり絶交を告げられても、鳩が豆鉄砲を食らったように「???」となるだけなんですよね。

<絶交の理由とは>

ではなぜ、コルムは絶交を告げたのでしょうか。それは、彼の生き方に対する考えが変わったからです。コルムは今後の余生を考えたときに、もっと思考したり作曲したりすることに時間を充てたいと思っていました。なので、パードリックとつまらない話をしている暇なんてないから、もう話しかけてくれるなと。まあ、それだけパードリックの話がつまらないってことなんでしょうけど、他の村人たちの話からするに、別にパードリックがそこまでつまらない人間ってわけではなさそうですけどね。むしろ、いい人だと思われているぐらいで。こればっかりはコルムの主観なので何とも言えないですけど。

コルムの言いたいことはよくわかります。自分の中でもっと有意義な時間の使い方をしたいってことですから。現実でもよくありませんか?今まで仲間たちとウェイウェイ飲んでたけど、もっと違うことに時間を使いたいから、参加頻度が減っていくみたいな。それはもう方向性の違いだから、どちらが悪いってことでもないと僕は思いますけどね。ただ、こういうときって、付き合いを減らしたいと思っている方は、けっこう上から目線になりがちです(僕もそう感じたときがありましたw)。「お宅ら、いつまでそんなことやってんの?」って。だから、コルムは言い方が悪かったなとは思います。もっと丁寧に、順を追って説明していれば、パードリックとの関係がこじれることもなかった気がしますし。あまりにも一方的かつ唐突ですよ。言い方もパードリックの人格を否定するようでよくない。さらに、コルムはそのことで自傷行為に走るほど病的な一面もありますからね、単純に怖いです。

<思考力の衰退>

とはいえ、映画では描かれていませんでしたが、コルムの中で積もりに積もったものが爆発してしまった可能性もあります。パードリックたちが住む島は孤島で、外界との接触がほぼありません。となると、価値観や生き方も固定化されてきて、コルムの考えを理解できないことだってありえます。本当はコルムはもっと前々からパードリックとの付き合いを減らしたいと思っていたのに、彼に自分の考えが伝わるかわからず、ズルズルとここまできてしまったという妄想もできますよね。

実は、パードリックの妹シボーンも、島での生活やそれに安住している兄には疑問を持っており、最終的に彼女は島から出て行ってしまうんですよ。これだって、パードリック自身に非はありません。単純に「現状のままだとヤバい」と思った妹がその環境から脱しただけですから。でも、パードリックは妹の行動に驚きを隠せませんでした。彼は頑なに島を出ようとしませんでしたが、やはり固定化した生活環境に身を置くことで、人として思考力が衰退していってしまっているんじゃないかと思いましたね。結局、パードリックはコルムの主張も理解することができず、衝撃的な展開になっていきます。そこはぜひ劇場にてその目で確かめてほしいんですが、もしパードリックが多様な価値観を知り、外の世界に好奇心を抱けば、コルムにだってシボーンにだって、彼らの主張を受け入れる余裕はできたんじゃないかと思います。パードリックが無知っていう言い方が正確かはわかりませんが、彼とコルムやシボーンはあまり会話が成立しない感じがしたので、やはり同じレベルの教養がないと、その関係性は長くは続かないのかもしれません。

<そんなわけで>

親友同士の絶交を通じて、価値観の違いを認め合うには、双方にそれなりの教養が必要だと思う映画でした。もし自分がパードリックと同じ境遇に陥ったら、やっぱりまずは相手と話し合って、自分に非があるなら謝るし、生き方の違いであれば素直に認め合うかなって思いました。どちらかといえば地味な雰囲気ですが、テーマは深い映画でしたね。そういえば、観客でひとりだけ常に爆笑してる人がいましたけど、自分は何がそんなに笑えるのかわかりませんでした(笑)多分、よくある外人だけメッチャ笑ってるとか、そういうことだと思うんですけど。


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