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癌に侵された友人に希望を与えるために800kmもの距離を歩いて会いに行く心温まるヒューマンドラマ『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』

【個人的な満足度】

2024年日本公開映画で面白かった順位:54/77
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆

【作品情報】

   原題:The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry
  製作年:2022年
  製作国:イギリス
   配給:松竹
 上映時間:108分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:小説『The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry』(2012)
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/haroldfry/

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
定年退職し、妻のモーリーン(ペネロープ・ウィルトン)と平凡な生活を送るハロルド・フライ(ジム・ブロードベント)。ある日、北の果てから思いがけない手紙が届く。差出人はかつてビール工場で一緒に働いていた同僚クイーニー(リンダ・バセット)で、ホスピスに入院中の彼女の命はもうすぐ尽きるという。

ハロルドは返事を出そうと家を出るが、途中で心を変える。彼にはクイーニーにどうしても会って伝えたい“ある想い”があった。ホスピスに電話をかけたハロルドは「私が歩く限りは、生き続けてくれ」と伝言し、手ぶらのまま歩き始める。

歩き続けることに、クイーニーの命を救う願いをかけるハロルド。目的地までは800キロ。彼の無謀な試みはやがて大きな話題となり、イギリス中に応援される縦断の旅になるが──!?

【感想】

素敵な設定が多い松竹配給の洋画のヒューマンドラマ。もちろん当たり外れはありますが、この映画は意外性のある設定と主人公ハロルドの抱える後悔が反面教師になりそうな内容で面白かったです。

<医学よりも大事なことがある>

本作は、病気の友人を励ますために800kmもの距離を徒歩で会いに行くという前代未聞すぎるおじいちゃんの話です。800kmというと、東京都庁を起点に北は北海道の函館あたり、南は島根県の出雲あたりまで行けちゃう距離ですね。「公共交通機関使えよ」って話なんですが、そんな野暮なことは言うなかれ。この旅は、目的地に着くことよりも歩いて行くことに意味があるのですから。ホスピスで床に伏す旧友との久しぶりの再会は二の次で、いつ死ぬかもわからない彼女のために、年甲斐もなく歩いて行くことで希望を持ち続けてほしいというのが狙い。現に、身寄りのない患者は急速に弱っていくらしいのですが、クイーニーはハロルドが歩いて行くというのを聞いてから徐々に元気を取り戻していったそうです。確かに病気の治療には医学が必要なのは疑いのない事実ではありますが、時に医学では解明できないようなことが起きるから人体って不思議だなと思いますね(別にこの映画はその奇跡を深掘りする話ではないですがw)。

<"思い立ったが吉日"を地で行く>

そもそも、旅の始まり自体が唐突でした。クイーニーからの手紙の返事をポストに出しに行く、その途中でハロルドは歩いて行くことを思い立ってそのまま出発してしまうんです。普通は家に帰っていろいろ準備をしそうなものですが、彼の場合は妻に話すことすらせずにそのまま行ってしまいました。それもそのはず、もともとはポストに行くだけだったので、スマホも家に置きっぱなしですし、服装も荷物も旅とはほど遠いものです。もし家に戻っちゃったらその決意が鈍るとかそういうことだったんですかね。

ハロルドって普段全然歩かないみたいなんですよ。妻が言うには、家から車までの距離ぐらいだそうで。それもう数メートルのレベルじゃんって話ですよね。それでもハロルドはひたすら歩く歩く歩く。いつの間にやら彼の行動を知った人(どういう経緯で知ったかの描写がないんだけど)も集まっていっしょに歩くように。最終的に50人はいたんじゃないですかね。自分がハロルドだったらメッチャ邪魔だと感じますけど。まわりの迷惑だし、自分のペースで歩けなくなるし。しかも、彼らって別にクイーニーの心配をしているわけではなく、ただ偉業に乗っかりたいだけの俗物ですから、どっかに行ってほしいんですけど(笑)かといって、悪いことをしているわけでもないので無理に追い払うこともしづらいとは思いますが。。。それに、ハロルドが心を許せる人も中にはいたようなので、デメリットばかりではなかったのかもしれません。

<歩くことで思考が鮮明化する>

長い長い距離を歩いて行く中で明かされるハロルドの過去。実はそれこそがこの映画のポイントでした。家族のこと、息子のこと。その悩みを聞いてもらっていたのがクイーニーだったんですよ。ハロルドは彼女に取り返しのつかないことをしてしまった負い目もあって、彼女を元気づけると同時に贖罪の意味も込めて歩き続けていたんでしょうね。僕もそうなんですが、歩いているときっていろいろ考えごとがしやすく、頭の中を整理できたりしませんか?もしかしたら、ハロルドも歩きながら思考が整理され、自分の過去と向き合えたっていうのもあるんじゃないかなと思います。それゆえに、過去の過ちを再び思い出さなくてはならなくなるんですけど。そんなこともありながら、最後は綺麗に終わってくれるので個人的には好きな映画でした。

<そんなわけで>

年老いた男がひたすら歩くだけの映画かと思いましたが、彼が自身の内面を掘り下げていく意外と深い話でもありました。人はいくつになってもチャレンジすることができるということが伝わってくると同時に、年老いても消えない後悔があるんだということがよくわかりました。自分の人生に活かせるところがあるかはわかりませんが、会いたい人には会っておき、感謝や謝罪の気持ちはためらわずにすぐに伝えておくことは大切かもしれません。

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