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身寄りのない死者に寄り添う優しさと心温まるラストに涙が止まらない『アイ・アム まきもと』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:39/147
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

  製作年:2021年
  製作国:日本
   配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
 上映時間:104分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:映画『おみおくりの作法』(2013)

【あらすじ】

小さな市役所に勤める牧本(阿部サダヲ)の仕事は、人知れず亡くなった人を埋葬する「おみおくり係」。故人の思いを大事にするあまり、つい警察のルールより自身のルールを優先して刑事・神代(松下洸平)に日々怒られている。

ある日牧本は、身寄りなく亡くなった老人・蕪木(宇崎竜童)の部屋を訪れ、彼の娘と思しき少女の写真を発見する。一方、県庁からきた新任局長・小野口(坪倉由幸)は「おみおくり係」廃止を決定する。

蕪木の一件が“最後の仕事”となった牧本は、写真の少女探しと、1人でも多くの参列者を葬儀に呼ぶため、わずかな手がかりを頼りに蕪木のかつての友人や知人を探し出し訪ねていく。工場で蕪木と同僚だった平光(松尾スズキ)、漁港で居酒屋を営む元恋人・みはる(宮沢りえ)、炭鉱で蕪木に命を救われたという槍田(國村隼)、一時期ともに生活したホームレス仲間、そして写真の少女で蕪木の娘・塔子(満島ひかり)。蕪木の人生を辿るうちに、牧本にも少しずつ変化が生じていく。

そして、牧本の“最後のおみおくり”には、思いもしなかった奇跡が待っていた。

【感想】

日本のオリジナル映画かと思ったんですが、実は元ネタがあります。2013年のイギリス・イタリア合作映画である『おみおくりの作法』ですね。幸いにもAmazonで観れるので、そちらを鑑賞してから本作に臨んだのですが、これがもうとてもいいリメイクでして、ぜひみなさんにオススメしたいです。

<日本向けのアレンジがうますぎる>

個人的な経験上、リメイク作品についてはオリジナル版の方がよかったなと思うことが多いです。まあ、アクションやSFなど、VFXがモノを言う作品については別ですが、ヒューマンドラマなどのストーリーやキャラクターで見せていくジャンルは特にその傾向がありますね。でも、この映画に関しては、オリジナル版をほぼ忠実に再現しつつ、日本人の舌に合うようにうまくアレンジされていたんですよ。なかなかそんなうまくできたのってないんじゃないですかね。

<牧本のコミカルなキャラクター性の勝ち>

ストーリーはほぼ同じなのに、どこが一番日本向けにアレンジされていたかというと、一番よく表れていたのが主人公の牧本です。とはいっても、キャラクターの軸としてはオリジナル版と同じです。身寄りのない遺体に自費で葬儀をあげる優しさ。真摯に仕事に取り組む真面目さ。そして、見送った人々の写真をアルバムにまとめる几帳面さ。この3つが主人公の魅力であり、そこは変わらず大切にしてくださっていたのはよかったです。変わっていないのはよかった。

じゃあどこが違うのかというと、性格なんですよ。オリジナル版で主人公だったジョン・メイ(エディ・マーサン)は、とにかく寡黙な人物でした。必要以上のことは話さず、その代わり誰にも迷惑をかけず、黙々と仕事をこなしていくのが印象的でした。

一方、本作の牧本はどちらかと言えばおしゃべりでしたね。人との距離感もややおかしく、極度のマイペース。恐ろしく察しが悪いのに、自分がこうだと思ったら他なんておかまいなしに突き進む。ある意味、素直で純粋な人物として描かれていました。オリジナル版とは180度違う性格ですよ。それがね、阿部サダヲさんという役者とすごくマッチしているんです。これは彼の過去の映画やドラマを観て得られる彼に対する印象ゆえでもあるかなと思うんですけど、今回の牧本を演じられるのは彼しかいないと思いましたね。ストーリーは感動的ながらも、あのコミカルなキャラクターは笑いを誘うので、涙と笑いのバランスが絶妙でした。

オリジナル版を観ているので、もちろんオチは知っています。でも、牧本のキャラクターがコミカルだったからこそ、ストーリーとのいいギャップになっていて、内容はわかっていても泣けました。もしかしたら、オリジナル版を観ていた方が楽しめるのかもしれません。

<人の死との向かい方について考えさせられる>

僕も祖父母は亡くなっているので、人の死に直面したことはもちろんあります。そのときにいろいろ思うこともあったので、劇中で上司の小野口(坪倉由幸)のセリフには一理ありました。

「葬儀は残された者のためにやる。その残された遺族が望んでいないならやる意味がない」
「死者の想いなんかない」

死んでしまったらね、もうその人の意志なんてないですよね。葬儀をあげようがあげまいが、本人にはもはや関係なく、生きている人の自己満だっていう気さえします。それに、死んでしまったら、もはやなかったことと同じというか。人がひとり死んでも、世の中は何事もなかったように日常が続いていきます。そう考えると、牧本が自分と何の関係もない人たちのために、自費で葬儀をあげる行為は、確かに無意味かもしれないとも感じました。

でも、牧本が蕪木の身内の人を探していると、蕪木のエピソードが出てくる出てくる。彼の場合は悪いことの方が多かったですが、この世に生まれて、生きて、他人と関わり、影響を与えていたっていう事実はあるんですよ。たとえ社会的には何の意味もなくとも、そこにはひとりの人間の歴史が存在するんです。そう考えると、いくら生きている人(残された人)の自己満とはいえ、やっぱり何かしてあげたくなっちゃうなっていうのは共感できる部分でしたね。身内も亡くし、自分も歳を取ってくると、たまーに死について考えたりするんで、この映画を観ていろいろ思うことはありましたね。

<そんなわけで>

笑いと涙のバランスがいいヒューマンドラマ。牧本の察しの悪さがとにかくおかしいし、最後のオチに涙する感動作です。エンディングで流れる宇崎竜童が歌う“Over the Rainbow”も素敵でした。ぜひ映画館で観てほしい映画です。


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