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罪を犯した人の更生に寄り添う保護司の苦悩と覚悟と優しさが溢れている『前科者』

【個人的な評価】

2022年日本公開映画で面白かった順位:6/18
   ストーリー:★★★★★
  キャラクター:★★★★★
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★☆

【ジャンル】

サスペンス
ヒューマンドラマ
保護司

【原作・過去作、元になった出来事】

・漫画
 香川まさひと『前科者』(2017-)

・ドラマ
 『前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(2021)

【あらすじ】

2つの仕事をかけ持つ阿川佳代(有村架純)、28歳。コンビニ勤務は至って平穏だが、もうひとつの務めは波乱に満ちていた。

元受刑者の更生を助ける保護司という仕事で、国家公務員ではあるものの、ボランティアのため、報酬は一切ない。それでも阿川は、次々と新たな問題を起こす前科者たちを時に叱り、時に励ます。「もっと自分の人生を楽しめば」とまわりには言われるが、何があっても寄り添い続ける覚悟に一点の曇りもなかった。

そんな中、阿川は殺人を犯した工藤誠(森田剛)を担当することになり、懸命に生きる彼を全力で支える。ところが、工藤は保護観察終了前の最後の面談にも現れず、社員登用が決まっていた自動車修理工場からも忽然と姿を消す。折しも連続殺傷事件が発生し、捜査線上に工藤が容疑者として浮かぶことで、これまで阿川が隠してきた過去や"保護司になった理由"が明かされていく。

置いてきた過去に再び向き合う工藤、彼を信じてその更生に全力を注ぐ阿川。2人がたどり着いた先に見える希望とは――?

【感想】

これはまたすごい映画ですよ。。。いやー、本当に見ごたえしかなかったですね。罪を犯した人と保護司が織り成す人間ドラマがものすごく面白いです。

原作漫画は未読なんですが、昨年、WOWOWでやってたドラマがアマプラにあったので、それを観てから映画を鑑賞しました。ドラマは2話で1エピソードみたいな感じで、映画とは直接の繋がりはありません。なので、ドラマを観ていなくても映画は楽しめると思いますが、キャラクター背景をあらかじめ知っておくと、映画の方もより楽しめるかと思いますよ~。30分×6話ですぐ観れちゃいます。

<阿川先生のホスピタリティに打ちのめされる>

保護司がどんな仕事なのか、知っている人ってどれぐらいいるんでしょうか。正直、僕はあまり知らなかったんですが、簡単に言ってしまうと、前科者の更生の手助けをすることですね。出所した彼らが、普通の生活ができるようにサポートするんです。当然、阿川先生の仕事もドラマでも映画でも同じです。でも、すべてが穏やかに終わるなんてことはまずありません。身元引受人が受け入れを拒否することもあれば、前科者が職場でトラブルを起こすこともあります。そのたびに、阿川先生はバイト先のコンビニを抜け出して、現場に向かい、説得したり頭を下げたりと、精神がすり減るようなことを繰り返します。余談ですが、いきなり抜け出しても許しちゃうコンビニの店長優しすぎますよね(笑)

でも、彼女は決して前科者を見捨てることはしません。自宅に招いて手料理を振る舞う優しさを見せ、必要なときには大声で叱り飛ばす。母親か教師のような存在なんですよ。世間から白い目で見られ、人によっては身内もおらず、行き場を失くした前科者にとっては、心の支えなんじゃないでしょうか。そんなことを無償でやり続ける阿川先生のホスピタリティの高さには頭が上がりません。今回の映画でも、あとちょっとで保護観察が終わる工藤に、身内以上に親身に寄り添い、彼の未来を案じた阿川先生のキャラクターには、心底尊敬の念を抱いてしまうほどでした。

<明かされる阿川先生の過去>

本作では、ドラマでずっと匂わせていた阿川先生の過去も描かれています。まあ、ドラマを観ていれば、なんとなくわかるとは思うんですけど、彼女と彼女の大切な人に訪れた悲劇でした。阿川先生にとって、他の誰にも知られたくなかったことであり、また彼女が保護司になろうと決めた本当の理由でもあります。その悲劇を体験したとき、普通なら怒りと復讐に燃えるでしょう。でも、そこを彼女は「もし、前科者に寄り添うことができたら、あんなことにはならなかったかもしれない」と、救済の道を見出すんですよね。

なかなかできることじゃないですけど、ただ怒って仕返しするだけでは、根本の解決にはなりません。そういう社会に根差す問題を元から解決していこうとする阿川先生の頭のよさというか、心の広さというか、着眼点がすごいなと思いましたね。そんな背景があるからこそ、阿川先生の覚悟って尋常じゃないんですよ。自分が体験した悲しみを二度と繰り返さないためにも、前科者の更生に全力を尽くす。こんなに強い動機はありません。

<工藤を演じた森田剛の演技がすごい>

工藤は壮絶な人生を歩んでいます。幼少期の頃、義父による虐待を訴えるものの、警察も行政も適切な対応せず、結果、目の前で実母が義父に殺されてしまいます。その後も弟といっしょに施設に入れられますが、そこでも虐待に悩まされ、ようやく社会に出るも、アルバイト先のパン工場でいじめに遭い、そこで先輩を刺殺してしまったことで服役となりました。

人生に希望というものが見出せない中、それでも懸命に生き、阿川先生と対話を繰り返すことで、ささやかな日常を取り戻しつつあった工藤に、突如として訪れた過去との対峙。全編を通して見せる工藤の驚きや苦悩、やるせなさといったネガティブ全般の表情や雰囲気を出した森田剛のすごさよ。。。『ヒメアノ~ル』(2016)っていう映画、観たことある方はわかると思うんですが、あれでも森田剛の演技に圧倒されてしまって。。。それと同じぐらい、今回も素晴らしい演技だったので、あれだけでも一見の価値アリだと思います。

<そんなわけで>

一生懸命、“普通”になろうとしている工藤と、そんな彼に寄り添う阿川先生の人間ドラマは、本当に見ごたえあります。そして、それ以上に保護司という仕事の大変さと尊さも知ることができるので、この映画(およびドラマ)は本当にオススメできます!


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