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同性愛者の苦悩と理解への歩み寄りを描いた『彼女が好きなものは』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:105/257
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【要素】

ラブストーリー
ヒューマンドラマ
同性愛

【元になった出来事や原作・過去作など】

・小説
 浅原ナオト『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』(2018)

【あらすじ】

高校生の安藤純(神尾楓珠)は自分がゲイであることを隠している。ある日、書店でクラスメイトの三浦紗枝(山田杏奈)が、男性同⼠の恋愛をテーマとした、いわゆるBLマンガを購⼊しているところに遭遇。BL好きを隠している紗枝から「誰にも⾔わないで」と口止めされ、そこから2人は急接近。しばらしくて、純は紗枝から告白される。

「⾃分も“ふつう”に⼥性と付き合い、“ふつう”の人生を歩めるのではないか?」。一縷の望みをかけ、純は紗枝の告⽩を受け⼊れ、付き合うことになったのだが…。

【感想】

普通のラブストーリーかと思いきや、むしろ同性愛者であることの苦悩を描いたヒューマンドラマでした。

<前半はオーソドックスな学園モノ>

この映画は前半と後半で雰囲気がだいぶ異なると思います。前半はよくある学園を舞台にした恋愛モノですね。ゲイであることを隠している主人公と、彼に恋しているヒロイン。いつカミングアウトするのかなという、話の盛り上がり的な期待はあるものの、他の学園モノとそこまで大きく変わるわけではないので、あんまり目新しさもなく、淡々と進んでいた印象がありました。

<後半のメッセージ性が強い>

ところが、後半に入って少し経ったあたりから、メチャクチャ面白くなるんですよ。純がゲイであることが紗枝にバレてからのすったもんだ。ここから純のこれまでずっと隠してきた想いがどんどん溢れていきます。「自分は異常なんじゃないか」、「いつか女の子を好きになれる日が来るんじゃないか」。そういった苦悩を胸に抱えて生きてきた背景と、その押さえ込んできた苦しみが爆発するところが、とても心に突き刺さります。

同性愛者への見方も、昔と比べれば現代の方がまだ理解があるんじゃないかなとは思います。とはいえ、生きづらさもあるでしょうし、何よりも当の本人たちですら、自分の性に対してとまどうことも多いんだなっていうのが、この映画を観て思いました。実際、純は自分が異常者であると感じてしまい、母親に対して「なんで僕なんか生んだんだ」と行き場のないやるせなさをぶつけるシーンがあります。彼らが人知れず抱いている苦悩を、普通の人でも共感しやすい形で表現しているのがよかったです。ずっと隠してきた自分の心の内を吐露する神尾楓珠の演技は印象的でした。

そんな純の想いを知り、紗枝もずっと隠してきたBLの趣味を公にすることで、ある意味彼と同じ立場に立とうとしたのが、マイノリティに対する歩み寄りというか、「好きになるのが男だろうが女だろうが関係ないじゃん。あたしだってこういう趣味あるし。人間いろいろだよ」って言ってくれているようで心強かったですね。

<その他>

純も紗枝も、一昔前だったら絶対自分のことを言わないままだったんじゃないかなと思います。もちろん、人に言えないことってのは今でもありますし、それは本人の性格やまわりにいる人たちの理解にもよるので、何でもかんでも話しちゃえとは思いません。でも、お互いのアイデンティティや好みを認め合うことで、ひとりで抱え込むことなく、少しずつオープンにできる社会になるといいなあと思える映画でした。ぜひ観ていただきたい映画です。


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