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☢️トリチウムはまぎれもなく放射性物質

この記事では、主にトリチウムの被ばくや分析方法について解説しています。


はじめに ~ALPS処理水の海洋放出~


福島第一原発では、東日本大震災の原発事故以降、汚染水が絶え間なく発生している。

汚染水を浄化処理した処理水が、2023年8月から海へ排出され始めた。

汚染水は放射能に汚染されており、
高濃度の放射性物質をたくさん含んでいる。

汚染水に含まれるトリチウムは現在の技術では除去できないため、ALPS処理水には高濃度のトリチウムが残っている。

  • トリチウムは身の周りに広く存在しているから安全

  • 世界でも海に流しているから安全

  • 体内に入った場合は水と同じように排出されるから安全

  • トリチウムは弱い放射線しか出さないから人体への影響は小さい

電気事業者や国は、これでもかとトリチウムが安全であることを強調する。
ほんとうにそうだろうか…?

1.トリチウムはまぎれもなく放射性物質


トリチウムは人体の主要な構成元素である水素の同位体

トリチウムはまぎれもなく放射性物質だ。それ以上でも以下でもない。半減期が12.3年で、ベータ線という放射線を出して崩壊する。

大気中では宇宙線が窒素や酸素といった物質と反応することでトリチウムが日々作られている。核実験や原子力施設の運転などの人間の活動によっても生成される。

大気中で生成したトリチウムの99%は水の状態で主に海水中に存在している。

海水中のトリチウム濃度は、0.1ベクレル/リットル程度。雨、河川水など淡水のトリチウム濃度は、0.2~0.6ベクレル/リットル程度だ。

2.トリチウム水を飲むと、どのくらい被ばくするか


1500ベクレル/リットルはALPS処理水の希釈目標濃度。
良い子はまねしないように!

トリチウム水は飲めると発言した議員がいたが、実際、飲むとどうなるのか?見た目や味はなんら水と変わらない。でも、飲むと余分な被ばくをして、ガンのリスクが上がる。

では、どのくらい被ばくするのか、見てみよう。

例として、1500ベクレル/リットルのトリチウムを含んだ飲料水を、体重70kgの人が毎日2リットルを1年間飲んだときに、どのくらい被ばくするのかを評価してみる。

1500ベクレル/リットルは、1リットル当り1500ベクレルのトリチウムを含んでいる。毎日2リットル飲むと、毎日3000ベクレルのトリチウムを体内に摂取することになる。

この条件では、被ばく線量は『1年間で0.0014 mSv』となる。

自然放射線による被ばく線量がおよそ2.1mSv/年であることから、被ばく線量としてはごくわずかだ。(詳細な計算過程は記事の最後にまとめています。興味ある方はご参照ください。)

3.被ばく線量だけでは安全かどうかの判断は難しい


被ばく線量を考えるときに、注意が必要なことは、人体をあくまで水の塊のような物体として扱っていることだ

トリチウムが放出する放射線から人体が受けとるエネルギーを計算したに過ぎない。

トリチウムから放出される放射線のエネルギーは確かに低い。プルトニウムから放出される放射線がミサイルとすれば、トリチウムはBB弾だろう。

BB弾なら身体に当たっても平気かもしれない。
でも目に当たったらどうだろう?

BB弾が安全かどうかは当たる部位を考慮しないと判断できない。威力が小さくてもピンポイントで目に当たるものであれば危険だ。


放射線のエネルギーが低い、被ばく線量が小さいからといって、安全であるとは簡単には言えないと思う。人体はそんな単純なものではない。

また、水の状態で摂取した当初は大部分のトリチウムは水のままだが、トリチウムを恒常的に摂取し続けると、最終的には身体中の水素を含む種々の分子の中に取り込まれることが知られている。


必要以上にトリチウムを恐がることはないと思うが、必要以上に安全を強調するものでもない。

トリチウム水は飲めると発言する議員がいても、実際に飲む議員はいない。飲めると言うことと実際に飲むことは違う。本当に安全だと思うなら飲めばいい。


以下、最後に、トリチウムの分析方法を紹介したい。ここでは食品に含まれるトリチウムを分析することを考える。

4.トリチウムはどのように分析するのか


食品に応じた方法でトリチウムを水として回収する。

処理水の海洋放出にともない、国や東電が海のモニタリングを行い、放射能分析結果を公表している。

また、食品会社や流通業界など、企業が独自で放射能検査を行い、安全を確認するということもされている。


①試料からトリチウム水を回収する

食品の場合、まず可食部(人が食べる部分)を切り分ける。この可食部を凍結し、真空乾燥させることによって水分を蒸発させる。

まさにフリーズドライだ。蒸発した水分を集めて再び液体の状態に戻すことで、トリチウムを含む水を回収する。

フリーズドライを行う目的は、食品からトリチウムが自然蒸発したり、逆に大気中の水蒸気が食品へ混入したりしないようにするためだ。熱による分解や変質も防ぐことができる。放射能の分析は非常にミクロなものを扱う分野なので、このようなことが重要になる。

このような方法を用いて水分を取り出すことによって、食品に含まれるトリチウムの放射能を正確に求めることができる。


②トリチウム水をきれいな水にする

回収した水には、塩や微量金属、有機物など、たくさんの物質が溶け込んでいる。後に放射線を測定するときにこれらは不純物として疑似計数(いわゆるノイズ)の原因となり、測定を妨害してしまう。トリチウムの放射能を正確に求めることができない。

これを防止するため、蒸留という操作を行って不純物を除去する。

蒸留では、混合物を一度蒸発させ、後で再び凝縮させることで、沸点の異なる成分を分離する。海水はそのままだと塩辛くて飲めないが、蒸留して真水にすれば飲むことができる。

③トリチウムの放射能を求める

あとは蒸留した水に対して、トリチウムから放出される放射線を測定し、トリチウムの放射能を求める。

トリチウムの放射線はエネルギーが非常に低く、直接測定することが難しいため、液体シンチレーションカウンターという装置を用いて測定を行う。

(液体シンチレーションカウンターについて)
トリチウムの分析には必ず登場するのでここで解説したい。シンチレーションは発光という意味で、その名のとおり、液体(シンチレータと呼ばれる蛍光を発する物質)の発光をカウントする測定装置。放射線のエネルギーを光に変換し、最終的に電気信号として測定する。
Liquid Scintillation Counterの頭文字をとって「LSC」と呼ばれることが多い。トリチウムの他に炭素14やアルファ線と呼ばれる放射線を放出する核種の分析にも使われる。


(参考)被ばく線量の計算過程

(計算条件)
β線エネルギー:最大18.6keV(平均5.7keV)
・摂取したトリチウムは水の状態で体内に存在すると考える。
・水は骨を除いて身体全体に分布しているとする。
・骨は体重のおおよそ15%程度として、骨の重量を除く60kgの体液や筋肉などが被ばくすると考える。

被ばく線量は下記の式で計算できる。
一年あたりの被ばく線量(mSv)=(1日当り摂取する放射能Bq)✕ 0.005 ✕(β線平均エネルギー MeV)/(被爆対象の重量 kg)

参考に、トリチウム水を摂取した場合、人体にどのくらいの期間残るのか。
物理的半減期:12.3年
生物学的除去の半減期:12日
物理的半減期と生物学的除去の半減期から、実行半減期は(12.3×365×12)/(12.3×365+12)より、約12日となる。
平均残留期間は実行半減期/0.693より、17.3日となる。これは一度に摂取した場合でもトリチウムは人体に17.3日とどまることを意味している。

(参考文献)
『新装版 人間と放射線 医療用X線から原発まで』ジョン・W・ゴフマン著(明石書店)

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