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『理科室まがった』 # 毎週ショートショートnote

「理科室まがった」をして遊んではいけません。
そんな言い伝えが、僕の小学校にはあった。
ずっと昔、その遊びをした子供たちが消えてしまったという。
それがいつ頃のことで、いなくなった生徒は誰なのか具体的なことは伝わっていない。
それがどんな遊びなのかも、誰も知らない。
「理科室まがった」をして遊んではいけません。
その言葉だけが、半ば冗談まじりで伝えられてきた。

「理科室まがったをしようぜ」
放課後の帰り支度をしていると、寺西くんが耳元で囁いた。
凍りついた僕を、背の低い寺西君は下から見上げながら、
「大丈夫さ。理科室で待ってるよ」
理科室は、渡り廊下を渡った別校舎の一階にある。
遅れて行くと、そこに寺西君の姿はもうなかった。
実験用の机の並ぶ教室のどこかから、寺西君の声がした。
「理科室まがった」
結局、寺西君が何をしたのかはわからないままだ。

その校舎を取り壊す時に、いくつかの声がしたと言う。
寺西君の声もあっただろうか。
「理科室まがった」


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