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読んでから見るか、見てから読むか〜「ブレット・トレイン」と「マリアビートル」

「読んでから見るか、見てから読むか」
これは、懐かしい角川映画のキャッチコピーだ。
角川映画といえば、僕たち世代から上の方には、
「犬神家の一族」や「人間の証明」、「野生の証明」、「蘇る金狼」、「戦国自衛隊」など、次々に思い浮かんでくるだろう。
人々がメディアミックス戦略を目にした最初ではないだろうか。

「犬神家の一族」では、馬鹿な男子は椅子の上に寝転んで両足を上げて、真面目な生徒の失笑を買っていた。
もちろん、あのシーンを再現しているつもりだった。
また、学年に1人は、ちょっとのっぺりした顔立ちで「スケキヨ」とあだ名される生徒がいたりした。
今なら、完全にいじめになるレベル。ごめんなさい。

「人間の証明」では、「お母さん、僕のあの帽子どうしたでしょうねえ、夏、確氷から霧積へ行く道で渓谷に落としたあの麦わら帽ですよ」のセリフに合わせて流れた予告編のシーンを真似て、教室の窓から野球帽を投げたりした。

そして、薬師丸ひろ子のデビュー作でもある「野生の証明」のテーマソング。
「男は誰もみな無口な兵士 笑って死ねる人生 それさえあればいい」
おちゃらけな僕も、
「男ってそうなんや」と身を引き締めたものだ。
高倉健も渋かった。

さて、このまま続けると、前置きの方が長くなりそうなので、本題に。

その「読んでから見るか、見てから読むか」の気分を久々に味わったのが、9月1日公開予定の映画、「ブレット・トレイン」

もちろん、小説を原作とする映画はいくらでもある。
でも、普段は、その映画を見るためにと、原作の小説を読むことはほとんどない。
小説と映画は、全く別のものであり、それぞれ独立した作品だと思っているからだ。
だから、映画が良かったからといって、すぐに原作を読むこともない。
読書を続ける中で、
「ああこれがあの映画の原作だったのか」
ということがたまにある程度だ。
映画が良かったからといって、原作となった小説が面白いとは限らないし、その逆もまた然りだ。

そんな僕が、今回は久々に「読んでから見るか、見てから読むか」と悩み、と言っても数分間悩んだ結果、「読んでから見る」ことにしたのが、この「ブレット・トレイン」
キャストは、ブラッド・ピット、サンドラ・ブロックをはじめとするハリウッド俳優。
日本人では真田裕之が参加、
走る東海道新幹線の中で、乗り合わせた殺し屋たちが、ブリーケースを巡って争い、殺し合うという内容。

8月は、特に足を運びたい映画もなかったので( 僕も妻も基本的に洋画しか見ない。それでも、僕は興味があれば邦画も見に行くが、妻は徹底している。自分の推しが出演している時と、娘に誘われた時を除いて )、9月に公開されるこの映画を見に行こうかとなった。

そこで、予告編を見ていて疑問がわいた。
なぜ舞台が日本なのか。
なぜ、東海道新幹線なのか。
ブラピがなんで日本の新幹線で戦ってるん?
今どき、日本に忖度しているなどということはないだろう。
中国ならわかるけれど。
「なんでなん? 」
妻に聞いても、わからない。

これは、原作を読めば何かわかるのかもしれない。
ブラピが日本で戦わなければならないヒントくらいはつかめるかもしれない。
そこで、「読んでから見る」ことにした。

原作は、伊坂幸太郎の「マリアビートル」

伊坂幸太郎の作品はこれまで何作か読んだことがあるが、熱心な読者ではない。
ただ、読むたびに、その世界に引き込まれていた。
今回もそうだった。
舞台の超特急並みに、目まぐるしい展開にすぐに引き込まれていく。

デパートの屋上から突き落とされた幼い息子の仇を討とうする、元殺し屋の「木村」
真面目そうな顔立ちで大人を騙す、サイコパスさながらの中学生「王子」
2人組の殺し屋で、人生で大切なことは全て機関車トーマスに学んだとでもいうべき「檸檬」と、常に冷静で論理的に行動する読書が趣味の「蜜柑」
普段は、気が弱く、ついていないが、やるときはやる「天道虫」
この4人を中心に、東京から盛岡へ向かう東北新幹線「はやて」の車内で、激しい、そして、しっちゃかめっちゃかの争いが繰り広げられる。

さあ、読み終わってどうか。
結局、最初の疑問はそのままだ。
映画の舞台はなんで日本なん?
東北新幹線が、東海道新幹線に変わっているみたいやけど、別にどこかアメリカの特急列車でもよかったんちゃうん?
ブラピやったら、その方が自然ちゃうん?

登場人物の1人、「王子」が大人に向かって、問う。
見透かしたように、嘲笑うかのように、
「どうして人を殺してはいけないんですか? 」
この答えようのない問いが、読んでいる間、視界の隅の羽虫のように頭のなかに引っかかる。
元殺し屋「木村」の父が王子に言う。
「いいことを教えてやるよ」と。
「六十年、死なずにこうやって生きてきたことはな、すげえことなんだよ。分かるか? おまえはたかだか十四年か十五年だろうが。あと五十年、生きられる自信はあるか? 口では何とでも言えるがな、実際に、五十年、病気にも事件にもやられずにな、生き延びられるかどうかはやってみないと分からねえんだ」
小説では大詰めのシーンだが、映画に取り入れられているかどうか。
予告編で見る限りは、原作に比べてかなりアクションが派手になっているようだ。

もう、あとは見るしかない。
9月1日を楽しみに、高校野球ロスの8月を乗り切ろうと思う。

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