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『神様だって観たいのよ』

武田君の出勤が早くなった。
毎日、毎日少しずつ早くなっている。
仕事も早い。
やるべきことはテキパキとこなしている。
来週までにと依頼した企画書は、週の半ばには出来上がっている。
動作も早い。
社内をいつも早足で、忙しそうに歩き回っている
昼休みも半分くらいで戻ってくる。
「武田君、少しはゆっくりしたらどうだい」
心配した上司が声をかれると、
「ボクハフツウナンデスケレドモ、ミナサン△□※※■▶︎※…」
最後は早口でうまく聞き取れなかった。
定時までには、仕事を片付けて帰っていく。
出勤時間が早くなるのに合わせて、退勤の時間も早くなっていった。

希美は歩いていて、ふと自分がひとりなのに気づいて立ち止まった。
振り返ると、彼はまだかなり後ろをゆっくり歩いている。
「どうしてそんなにゆっくりなの」
「君が早すぎるんだよ」
希美はベンチに腰掛けて彼を待とうと思ったが、突然体が動き出した。
「おい、待ってくれよ」
彼の声がするが、足は止まらない。
どんどん彼から離れていく。
あっという間に公園を一周して、そのままスタスタと家まで帰ってきた。
自分の部屋で、一息ついて、
「あれ、彼は? 」

よしこ先生の授業はあっという間に終わった。
教室から出て行ったと思うと、またやってきた。
早口で何を言っているのかわからない。
黒板の字も全てノートに写しきれない。
5月の半ばだというのに、歴史の授業はもう大政奉還だ。

その頃、ある場所では。
「お前、Netflixとか観たいからって、ダメだよ、人間を早回しにしちゃ」
「だってさあ、人間の運命見てるより、こっちの方が面白いわよ」
「でも、ダメダメ、ちゃんと仕事をしろ」
「あーあ、神様だって、楽しみたいのに。ねえ、人間たち、少し巻き戻してもいい? 」
「それは、絶対にダメ」

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