『2つの秘密とひとつの夕陽』
小さな町に若い男女がいました。
2人は恋人同士でした。
いつまでも一緒にいようと約束しました。
2人は成長しました。
彼は夢を持ちました。
その夢はこの小さな町では叶えられない夢でした。
彼女に夢を打ち明けました。
彼女にも夢がありました。
この町で彼と暮らすことです。
彼と彼の家族と、
いつまでも暮らしていきたい。
夕暮れの丘の上で
2人は話し合いました。
それは長い長い夕暮れでした。
やがて日が沈み、暗闇の中に町の明かりが灯ります。
次の日、その先は駅へと続く橋の上で彼は言いました。
必ず迎えに来るよと。
彼女は黙ってうなづきました。
少しすると、彼はもうすぐ成功するらしいと聞かされました。
また少しすると、彼が成功するらしいと告げた人も町を出ていきました。
彼からの途絶えた手紙を待ち侘びることも少なくなりました。
彼があの橋を渡ることはないよと友人が言いました。
彼はもう戻らないと大人が噂しました。
彼の後ろ姿に呼びかける夢の中。
彼が振り向かなくなった頃、彼女も町を出ました。
彼とは違う都会に向かって。
時が経ち、別々の都会に同じ秘密を持つふた組の夫婦が幸福に暮らしていました。
別々の都会で、同じ夕暮れを迎えようとしています。
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