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失って得るもの〜映画「サウンド・オブ・メタル」を見て

映画「サウンド・オブ・メタル」の内容に触れています。


映画「サウンド・オブ・メタル」を見た。
今年のアカデミー賞で編集賞と音響賞を受賞。
かなり前にAmazonプライムのウォッチリストに入れてそのままになっていた。

AmazonプライムでもNetflixでもそうなのだけれども、リストに入れると安心してそのまま放置してしまう癖がある。
買い物でも、Amazonのウイッシュリストに入れたものは、案外買っていなかったりする。

ちょうど2時間ほどの空き時間ができて、上映時間優先で調べていたら出てきたので見てみることにした。

最初はヘビメタミュージシャンの、「セッション」のような音楽に関わるドラマかなと想像していた。

期待は裏切られ、もっと「静かに」展開する映画だった。

以下、ネタバレしているので先に言っておくと、見た方がいい映画。


ドラマーのルーベンは恋人のルーとトレーラーハウスに暮らしながら、バンド活動をしていた。
ある日、突然聴覚に異常を覚えたルーベンは病院で診断を受ける。
医者からは治る見込みはなく、いつ聴力を失ってもおかしくないと告げられる。
それでもバント活動を続ける言い張るルーベンをルーは説得して、聴覚障害者の支援グループに連れて行く。
そこは治療を目的とするのではなく、現状を受け入れて暮らしていこうとする場所だった。
少しずつそこの生活にも慣れていくルーベン。
しかし、どうしても音のある生活があきらめられずに手術をする。
その手術は聴覚を復活させるものではなく、インプラントを埋め込み、聴こえているように脳を錯覚させるというものだった。

この手術のあとルーベンが手に入れた世界。
それはノイズキャンセリングのイヤホンでヘビメタを大音量で聴き続けるようなものだった。

この映画では、ルーベンが聴覚を失っていく過程、手術後の音をそのまま再現している。見ているものは、ルーベンの世界に入り込んでいく。
この映画を見ていて感じるもどかしさは、そのままルーベンのもどかしさでもある。

支援グループを出ていく決心をしたルーベンに、施設の責任者ジョーは言う。
「世界は動き続けていて残酷な場所にもなる。だが、私にとってはその静寂こそ、心の平穏を得られる場所だ。その場所は決して君を見捨てない」

この言葉は最後のシーンで、見ているものの脳裏にもう一度フェードインしてくる。

聴覚を失ったために得られた平穏の世界。

僕たちは生きていく上で、さまざまなものを失う。
そしてそれまで思いもしなかった世界で生きていくよう強いられる。
ややもすれば、僕たちは失ったものを取り戻そうとやっきになる。

だがその時、そのあたらしい世界こそ、自分を見捨てずに、平穏を与えてくれる場所なのかもしれない。
そんなことを考えさせられた。




















































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