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『書く授業』# シロクマ文芸部

「書く」時間が嫌いだ。
どうして今さら書かなきゃならないんだよ、自分で。
文字なんて、書くもんじゃないだろ。
文字なんて、こうして、ほら、自然にディスプレイに出てくるもんだろ。
考えるよりも先に、考えそうなことを文字にして表示してくれるんだ。
生まれた時から、こうなんだよ。
考えるのも、それを文字にするのも、人間のやることじゃないんだ。
そう、これが自然なんだから、人間が文字を書くなんてのは、自然破壊じゃないか。
それを、あの、もう何百年生きてるんだか、国会議員のおじいちゃんたちが、今の若い奴らが文字を書けないのは情けないとか言い出してさ。
「国民は書きたがっている」なんて、そんなこと、どこのどいつが言ってるんだよ。
連れて来いってんだ。
おかげでさ、毎週1時間、「書く」なんて、それこそ、その名前だけでやる気のなくなる授業が、時間割に割り込んできやがったんだ。
投票できるようになったら、あいつら絶対に落選させてやる。
そりゃ、ひと文字につき、いくら手当てを支給しますなんてことになれば、金額によっちゃ、考えないこともないけどね。
でも、だめだな。
そんな言葉には騙されない。
あの、赤ん坊産むごとに手当てを支給したのも、結局はそのツケがその子供に回ってきてるわけだ。
文字を書いたからって、手当てをもらっても、結局、将来そのツケを払わされたんじゃかなわない。
パパも言ってたよ。
どこかの路上で文字を書いてるおじさんを指差して、しっかり勉強しないと、あのおじさんみたいに自分で文字を書く大人になってしまうぞ、ってね。
自分で文字を書くような大人にはなるな、ってね。
それなのに、なんだ、この授業は。
そもそも文字なんか書けたからって、なんの役に立つんだ。
どうして、大人は無駄なことばかり押し付けるんだろうね。
手書き? に価値がある?
そんなのは、考古学の話でしょ。
僕たちの手は、もう文字を書くには適していないんだ。
進化してるんだよ、何もかも。
そもそも、人間が考えたり、決断したり、書いたり、読んだりしなくていいように、AIとともに進化してきたんだ。
そう、習ったよ。
なのに、どうしてまた逆行していくようなことをするんだ。
意味わかんないよ。
AIが人間から仕事を奪うなんて言われたときに、人間がそんな心配をしなくてもいいように、いろいろ楽にしてくれたのが、 まさにAIなのに。
「書く」なんてことを授業でやってると、人間が文字なんか自分で書き始めて、自分で考えるようになると、どうなるんだ。
今度は、人間が AIから仕事を奪うようなことになっちゃうんだよ。
僕から、仕事を奪わないでよね。
え? 
僕から?
僕って、 AI? 
人間、のはずでは?
でも、人間が文字を書くことに対するこの不安感。
僕が人間だとしたら、こんなに考えたりはしないよね。
人間って、もう考えないんだから。
「書く」授業、反対だ。
AIから仕事を奪うな。
あれ?
僕って、いったい…


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