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『光る種』 # シロクマ文芸部

手渡されたのは光る種。
わたしはそれを小さな黒いケースに入れて旅立った。
目指すのはあの青い星。
そこでのわたしの任務は諜報活動。
「もし危なくなったら、この種を埋めるといい。数十秒後には、あの星は木っ端微塵だ。だが、その数十秒の間に、僕は君を助けに行くよ」
彼はわたしに言った。
過去には、この種でいくつもの星が爆破されたと聞く。
それだけ、他の星での諜報活動は難しいということでもある。
だが、わたしはこの種を使うようなヘマはしないだろう。
無事に任務を終えて、彼の元に帰るつもりだ。
この光る種は、別の誰かにまた手渡されることになる。

わたしは任務を順調にこなしていった。
要求される情報を確実に送り続けた。
そして、まもなくわたしの任務は、期限を迎えようとしている。
つまり、わたしの星は、この星を征服する準備が整ったということだ。
彼は、わたしの帰りを待ち侘びているだろう。

だが、とわたしは隣で眠る夫を見つめながら考えた。
わたしは帰るつもりはない。
任務をスムーズに遂行するための、夫婦関係だと報告はしている。
待ってくれている彼には申し訳ないが、工作員にも心変わりはある。
わたしのお腹には新しい命がいる。
もし、わたしの星が攻めてくるようなことがあれば、それがその時だ。
わたしは、枕元に忍ばせている小さなケースに手を触れる。
この中の光る種を埋める時だ。
わたしと夫は、爆発までの数十秒の間にこの星を脱出する。

子どもはどの星で産んだってかまわない。


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