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『リセット』
僕は、聞いちゃったんだ。
パパとママが話しているのを。
僕に妹とができるらしい。
うれしいことなんだけど、でも、そうじゃないんだ。
今のママが完成するまでに、今回も少し時間がかかった。
だって、他のおうちは、ネットでキットを購入してくるのに、パパはいちから自分で作るんだ。
だから、友達のママは、きれいなんだけれども、うちのママは、なんていうのかな、いびつなんだ。
もちろん、前のママは交通事故で亡くなったから仕方がないんだけれどね。
頭の部分が、ぶっ飛んでしまって。
で、今度のママの頭は、近くの薬局の前で客引きをしていた人形の頭をパパがもらってきたんだ。
それも、ずっと昔に使われなくなっていたのをね。
用もないのにいつも首を振っているのは、そのせいなんだ。
店の表にいた時にも、ずっとそうだったんだって。
嫌なのは、いつも顔を合わせると、
「いらっしゃいませ」
何だか、親子らしくないよね。
「おやすみなさい」って言うと、
「お大事に」
まあ、
「またお越しください」って言わないだけましかもね。
でも、しっくりこないなあ。
今までの中で、この前のママがいちばんよかったな。
ちょうどキャンペーンでキットが安く買えたんだ。
で、パパも張り切って、完成させたからね。
毎朝、優しく、
「おはよう」って言ってくれた。
僕が遊んでいると、
「あら、お勉強もしましょうね」
笑顔で言われると、勉強しなくっちゃってなるんだよ。
だけど、パパもかわいそうなんだ。
法律が緩和されて、元の生身の体を使わなければならない割合が少しずつ低くなってきているらしい。
それでも、何回も作り直していると、使える部分が少なくなってくるんだよ。
だから、使えるところは、とにかくどこでもいいから使っちゃうんだ。
もともとはどこだったかわからない皮膚の一部が、肩のあたりに貼り付けられていたり。
余った足の指が、背中から飛び出していたり。
そうでもしないと、割合が足りなくて、家族として、認められないんだって。
僕だって、後頭部に綺麗に並んでいるのは、誰かの爪らしいんだ。
爪を皮膚と認めるかどうか、パパはかなり交渉したらしいけれど。
どうせ、人間の部分なんて、いずれ無くなってしまうだろうって先生は言ってたな。
もちろん、うまく作れば、何年も何十年も活動し続けるから、それだけ、元の生身の時に近い形でいられるんだ。
でも、そんなのは、専門家に頼まないと難しいし、専門家に頼むと、恐ろしく吹っかけられるんだ。
だから、みんな、その家のパパが作るんだ。
もし、パパが亡くなって動かなくなったら、お隣のパパが作るんだ。
お腹に郵便ポストがついている近所のおばさんが言ってたよ。
「自分より男前には絶対に作らないのよ。だから、世の中からいい男がいなくなっていくの」
だって。
それでね、話は戻るけど、僕は聞いちゃったんだよ。
パパとママが夜中に、リビングで話しているのを。
どうやら、僕の妹を作る相談らしい。
ママは何度も作り直しているから、ママの生身で使えるところがもうこれ以上ないんだって。
だから、今のママの生身を使ったママは、もうこれで最後なんだ。
だから、どうしても、もう1人子供が欲しいって。
でも、今集まっている材料だけでは、どうしても足りない。
だから、僕をいったん解体して、小さくしようかって。
つまり、僕と新しい材料で、小さめの僕と妹を作ろうとしているんだ。
でも、僕を解体するのが、パパは辛いらしい。
パパは結構初期のAIを使っているからね。
パパを作ったのが誰なのかは、僕は知らない。
おじいちゃんなのかな。
もっとも、おじいちゃんを僕は知らないけれど。
でも、パパは今まで一度も壊れたことがない。
パパを作った人は、かなり腕のいい人だったんだと思う。
僕が生まれてから、何年にもなるけど、パパはそのずっと前から活動している。
もちろん、僕の生身の部分がいつ頃の僕のものなのかも、わからないけれどね。
僕は、パパに悲しい思いをさせたくないんだ。
新しいママは、僕が解体されても、首を振っているだけだろうと思う。
「お大事に」ってね。
でも、パパは、涙を流せるように作られているから、泣くと思うんだ。
だから、僕は、決めたんだ。
このベランダから、飛び降りようとね。
僕たちが自分で自分を破壊することは禁じられている。
そもそもそんなことはブログラムされていない。
でも、事故ならあり得ることだ。
事故なら、パパも仕方ないよねってなると思うんだ。
僕は、パパとママと、新しい僕に、かわいい妹をプレゼントしたい。
だから、僕は、今、うっかり、ここから転げ落ちるんだ。
うっかり…
パパは必ず、僕をもう一度作ってくれるさ。
そうだよね。
僕は知らなかったんだ。
バラバラに壊れて、飛び散ってしまっても、AIの部分はしっかり守られて、生き続けているなんて。
自分でも、どこの部品がAIだったのかは、わからないんだけれど。
これ、膝小僧かな。
膝小僧にAIをいれるなんて。
パパ、早く来てよ。
多分、僕はアスファルトの上にいるんだよね。
妹に早く会いたいな。
こんなこと、考え続けるのかなあ、リセットされるまでは。
リセットされたら、僕は新しい僕になる。
多分、今よりも小さな僕に。
変わらないのは、生身の僕の部分だけ。
それって、僕だよね。
パパ、まだかなあ。
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