『スナイパーの意外な使い方』 # 毎週ショートショートnote

俺はスナイパーだった。
だったと言うのは、恋をしたからだ。
スナイパーに恋は命取りだ。
もしかすると、その恋人や、その両親や、兄弟の眉間を打ち抜かなくてはならないかもしれない。
そんな時には、恋やら愛やらは邪魔でしかない。
だから、恋を選んだ俺は、足を洗った。

2人だけの平穏な生活に、新しい命がやってきた。
平穏は破られたが、幸福な日々。
そして、娘も来年は小学校。
だが、俺は気づいていた。
あの刑事だ。
執拗に俺を尾行している。
俺がいつかまた引鉄を引くのを狙っているのだろう。
ご苦労なことだ。

妻から連絡があり駆けつけた。
娘が、通りかがりの男に歯がいじめにされて、ナイフを突きつけられている。
駅前の広場は騒然としていた。
取り囲む警官。
その後ろで泣き崩れる妻の肩に手を置いた。

俺は素早く周りを見渡すと、あるビルの屋上に駆け上った。
ビジネスバッグの底に隠していた小型ライフルを取り出す。
その時、後ろで足音が聞こえた。
あの刑事だ。
構わず、俺は狙いを定める。
しかし、男は娘の陰に隠れてみえない。
焦る俺の背中に、足音が近付いてくる。
振り向くと、刑事は俺の耳元に囁いた。
驚いた俺は、刑事の目を見て少し考えた。
そして、頷いた。

俺は狙いを定めたままその時を待った。
来た。
警官のひとりが、男の方に向かって風船を投げた。
その風船は風に流されることなく飛んでいく。
そして、男の頭上に達した時、俺は引鉄を引いた。
風船が割れて、男に水が降りかかる。
驚いて娘を手放したところを、警官が取り押さえた。
娘が妻の手に抱かれるのを見て、俺は振り向いた。

俺は、銃口を持ち替えて、両手を刑事に差し出した。
眼を閉じて、手錠を待つ。
ふと、銃を持つ手が軽くなった。
刑事は俺の銃だけを持って立ち去った。


※大幅字数オーバーです。ごめんなさい。それと、スナイパーの意外な使い方どころか、スナイパーそのものでした。


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