『スべり高等学校』# 毎週ショートショート
「いよいよだな」
タカシが屋上から下を見下ろした。
「あっという間だったけどな」
僕は逆に崖を見上げた。
天気のいい昼休みには、屋上のベンチでみんな勉強している。
年号や英単語を覚えるには打ってつけの時間だ。
来週から推薦入試が始まる。
できれば、春まで待たずに進路を決めたい。
思いはみんな同じだ。
僕もなんとか3校に推薦してもらえることになった。
タカシとはひとつも重なっていない。
崖の上では来年の新入生のために、新しい教室が建てられ始めている。
その少し下に、今の一年生の教室。
崖の中ほどには、二年生の教室。
一番下に僕たち三年生の教室。
我が校は、大学入試には誰ひとりスベらせません。
それがこの高校のモットーだ。
我が校は、みなさんの代わりに3年間かけて教室が崖をスベって行きます。
たしか、安全のために毎日車を一台壊すっていうCMがあった。
大がかりなおまじないだ。
もうすぐ僕たちの教室は崖をスベり終わる。
その時が、タカシともお別れの時だ。
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