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『消しゴム顔』 # 毎週ショートショートnote
僕はいつものようにカフェで勉強していた。
間違った答えを消していると、不意に声をかけられた。
「それ、いただけませんか?」
隣の席の男がこちらを見て笑っている。
「それ、その消しゴムのカスですよ」
「こんなものでよかったら」
「じゃあ」と男は眉間のあたりを指差した。
「ここにこすり付けてください」
丸めたカスを男の眉間に押し付けた僕は、思わず「うわっ」と声を出してしまった。
男の眉間は、ぐにゃりとへこみ、その中に消しゴムのカスは埋まったしまったのだ。
「ああ、驚かれましたね」
男が眉間を数回撫でると、もう皮膚は滑らかになっていた。
「私の顔は消しゴムのカスでできているのですよ」
僕は声も出せない。
「皆さんが、消してしまった言葉や、記号や、絵、そんなもので私の顔はできているのです」
男は立ち上がった。
「それでは…あ、大丈夫ですよ。消しゴムなんて消すためにあるのですから。でも、消された言葉や数字の行き先、たまには思ってやってくださいね」
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