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Photo by
seikoala
『足音』
老人は壁に掛かった時計を見た。
早い夕暮れが訪れようとしていた。
テーブルに手をついて、ゆっくり立ち上がる。
北風が窓を鳴らしていた。
その犬も老人と同じように年老いていた。
老人が一歩進めば、犬も一歩進んだ。
首輪の鈴が鳴った。
老人のマフラーが風になびいた。
老人の足音。
犬の足音。
首輪の鈴の音。
規則正しく夕暮れの路地に響いた。
突き当たりの家の前で老人と犬は立ち止まった。
老人は2階の窓を見上げた。
窓に明かりが灯った。
老人と犬は路地を引き返していく。
老人の足音。
犬の足音。
首輪の鈴の音。
老人の足音。
犬の足音。
首輪の鈴の音。
時おり、老人の足音が犬を待つ。
時おり、犬は老人の歩みを待つ。
遠ざかる足音を、窓の向こうで一人の老婆が聞いていた。
足音が聞こえなくなる頃には、すっかり夜の帷が下りていた。
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