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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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2024年8月の記事一覧

『ひと夏の人間離れ』 # 毎週ショートショートnote

『ひと夏の人間離れ』 # 毎週ショートショートnote

人間離れした?
ねえねえ、彼と彼女、しちゃったんだって、人間離れ。
その頃、そんなヒソヒソ話が教室のあちらこちらで囁かれていました。
少し前に、あるアイドル歌手が「ひと夏の人間離れ」って言う曲をヒットさせたことも影響しています。

わたしは、「人間離れ」がよくわかりません。
わたしだけ、聞き漏らしてしまったのでしょうか。
両親に聞くのも何となく憚られます。
だから、そのまま知っているふりをして、う

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『この子』

『この子』

私は夫と犬の、二人と一匹暮らしだ。
これを三人暮らしと言う人もいるし、犬を「この子」と呼ぶ飼い主もいる。
私にはまだ子供はいないが、それを慰めるために飼っているのではない。
犬は犬だ。
そして、ペットはあくまでもペットであって、大体は飼い主よりも先に死に、死ねば新しいペットと取り替えられる。
もちろん可愛いが、それは自分に子供ができて思う可愛いとは違うはずだ。
犬は豆柴だと言われて買って来たが、雑

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『二度目の花火』 # シロクマ文芸部

『二度目の花火』 # シロクマ文芸部

花火と手紙が添えられていた。
花火は少し古そうだ。
子供用のセットで、さすがに打ち上げ花火はないだろうが、カラフルな花火がビニール袋いっぱいに入っている。
花火をそのままにして、恐る恐る手紙を開いてみた。
別にメールでもよかったものを、わざわざ手紙にするなんて。
しかし、手紙を読んでみて、こちらも返信を手紙で出そうと思った。
別にメールで送ったからといって、なにが変わるわけでもないのだろうけれど。

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『雲の味』 # シロクマ文芸部

『雲の味』 # シロクマ文芸部

夏の雲を食べてみたいとタカシ君は思っていました。
青い空にぽっかりと浮かぶ雲は、口の中でとろけるマシュマロのようです。
山の向こうからむくむくと湧き上がってくる雲は、甘い甘い綿飴のようです。
そんな雲を見ると、タカシ君はいつも、マシュマロや綿飴のような雲を両手に持って、お口いっぱいに頬張っているところを想像するのでした。

ある日の帰り道、いつものように公園を横切っていた時のことです。
小さな屋台

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『鳴らない風鈴』 # シロクマ文芸部

『鳴らない風鈴』 # シロクマ文芸部

風鈴とは風を聞くものです。
目に見えない風を音にして聞く。
そう思っていました。

私の母も、どこで手に入れたのか、青い鉄の風鈴を窓の外にぶら下げました。
風鈴からは、細い紐が出ていて、その下には小さな短冊のような物がついています。
母が短冊に何かを書いて折りたたんでいるのを見ましたが、母は人差し指を口に当てました。
内緒だと言うしるしです。

でも、母がどうしてその窓に風鈴をぶら下げたのか。

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