見出し画像

通販経営者として、或いは中小企業経営者として新卒採用を振り返る2

先日、前職時代の新卒採用についての記事を書きました。

前回は説明会の開催までのことを記しましたので、今回はそのあとに続く試験や面接について振り返ってみたいと思います。
企業経営において人材の採用というのは非常に重要な要素です。しかしながら採用は限られた時間に限られた一部の情報で決断しなければならない非常に難易度の高い性質の仕事でもあります。

優秀な人材とは?

以前にこんな記事を書いたことがあります。

自分が描く「優秀な人材」像に対して、同じくそのような人材像を志向する社員を採用するというのも大事です。私が優秀と思うイメージに反発する人がいると、面倒が増えるだけです。

優秀な人材と言っても業種ごとに、会社ごとに、いやもっと言えば経営者ごとに異なります。誰かにとって優秀だったとしても私にとって優秀とは限らない。知識や技術のレベルといったものでは測れるかもしれません。しかしもっと基本的なところであるその人の考え方とか価値観とったものが合っているかどうかということの方が大切でないか。私はそのように考えました。

優秀な人材はどこかにいるのか?

「人それぞれ」が口癖の私ではありますが、一方で「合う合わない」というのもあるわけです。とりわけ社員が数十人程度の小さな会社ですから、合う合わないの影響力はかなり大きい。合わないものに合わせる労力というのは仕事そのものに費やすエネルギーよりも相当な強さが必要です。できるだけそのエネルギーをかけずにマネジメントできるようにするかが大切です。

採用を始めるにあたってまず考えなければならないとするならば、経営者が求める理想の人材を整理することが第一歩になると私は思います。

私の採用活動を振り返ってみると、その理想とその理想の見分け方についてを回を重ねるごとに試行錯誤してきたのだと思います。

筆記試験をどのように作ったか?

文章力から見分ける

時期については正確には覚えてないのですが、オリジナルの筆記試験を作ったのは新卒採用を開始して3〜4年目だったと思います。
それ以前は業者が作成したSPI適性検査を活用して基本的な学力や指向性などを見ていました。しかしどうにもピンとこない。数多くの会社が使っていてデータも豊富な試験ですからその内容に疑いはありません。単に自分の理想を見分けるのに不十分だと感じたのです。

通販会社ですから、まずは文章を書いて商品を売る仕事がメインになります。そのためには文章力は必須です。そこで作文試験を行うことにしました。作文と言ってもテーマは商品を売るための文章です。もしかしたら今も続けているかもしれませんので、ここで詳しくは書けませんが、とにかく限られた時間内で一定量の商品を売る文章を書いてもらう試験を実施しました。

作文というのは実に人柄が現れるものです。手書き原稿用紙に書いてもらうので、字の癖も書き方の癖もでます。書かれた内容から感じる書き手の文章力や感性といったものは言うまでもない。
作文試験は私にとっては非常に有効な見分け方となりました。

計算力から見分ける

筆記試験にはもうひとつありました。それは計算問題です。計算と言ってもレベル的には算数レベルの計算です。これもあまり詳しくは書けませんが、売上や利益や率に関する文章問題です。そして通販を行う上で基本となる計算でもあります。

計算そのものは簡単であっても、文章題となると単なる計算力とは異なるスキルが分かります。計算問題は正解が明確なので年次ごとのレベル感の物差しにもなるという二次的な使い方もできました。

このふたつの試験結果は私だけでなく社員もチェックし、私だけの基準でなく会社としてどの人が相応しいかを判断する材料としました。
面接はその時間内で限られた人の判断に委ねることになりますが、筆記試験は回答が残るので複数の社員でより客観的な判断が可能になります。

また新卒で入社した社員はほぼ同じ試験を受けているので、「対過去の自分比」で見ることができます。「この人は文章が上手だなあ」とか「この計算ができないのか…」といった判断ができます。

こうした意見を参考にすると、自らも採用に関わったという責任感も生まれます。
実際には高評価だった人を私が不採用とする結果も多々あったわけですが、そのことから始まる対話や議論というのもまた大きな価値がありました。

こうした方法を取ることで、私自身にとっても他の社員にとっても、より自社に相応しいと思える人の採用が行えるようになったと私は感じています。

面接で大切にしたこととは?

採用において面接は最も重要なポイントです。幹部面接と社長の最終面接の2回で行っていました。
幹部面接においては、その時々によってグループ面接で実施したり、複数社員と学生1人としたり都度変更がありました。これは応募人数や採用スケジュール、こちら側のその時の業務量に応じて工夫をしていたというのが理由です。

面接で聞く内容もそれぞれの幹部に一任としたこともあれば、判断を明確にするために一定の質問に基づいて行ったこともあります。

面接は面接官と学生の相性にも左右されます。面接官は複数の学生の面接を行うのでその順番といったもにも影響を受けます。面接官が素晴らしいと思った学生の後に受ける学生と、いまいちだなと思った学生のあとに受ける学生では、面接官の受け取る印象は変わってきてしまう。これはもう人間がやることなので仕方ない。できるだけそうした差が出ないように心掛けましたが、やはり完全には不可能です。
「縁」というと採用側には都合がいい言葉かもしれませんが、「縁」と割り切らざるを得ないのが正直なところでした。

ただ一貫して基本的な原則としていたことは、出来るだけ時間をかけて丁寧にするということです。質問内容を設定したとしても、紋切型にならないよう出来るだけ相手の個別の話を引き出して、それぞれの良いところを探すよう皆で心掛けるようにしました。

履歴書に書かれた特技や経験、最近では「ガクチカ」と言われる学生時代のエピソードから、その人が大切にしていることや指向性などを引き出す流れです。
ちなみにひところよく耳にした「圧迫面接」は一切行わない主義でした。なぜならそういう言葉や態度で仕事に取り組むことは好まない社風だったからです。それにそもそも面接のたびに相手を圧迫していたら、している面接官も大変ですから。

面接は採用側もされている

面接というのは企業側が学生を選ぶ選考過程ではありますが、一方で学生も企業を品定めをしているものです。面接官の様子や態度、言葉遣いといったものから「この会社でやっていきたいか」「この会社で毎日過ごしたいか」を考えているものです。

だから採用サイトや説明会で伝えている会社の理念や方針と異なる空気が出てはいけない。企業ブランドに大きく関わるところでもあります。
私はチャレンジすることを大事にしていると言っているわけですから、学生の失敗談とかを出来るだけ引き出し、チャレンジしたことを大いに共感するようにしていました。学生からも本当にチャレンジを推奨しているんだと感じてもらうためです。

面接では概ねこちらからの質問が終わると、逆に学生からの質問タイムを必ず設けていました。会社についてなにか聞きたいことはないですか?ということです。社長に直接質問できる絶好の機会ですから、遠慮なくなんでも質問してください、とできるだけ柔和な表情で問いかけます。

実は私にとってはここからが面接の本番と言っても過言ではありませんでした。この時間をチャンスと感じて色々な質問をしてきてくれるような人を求めていたからです。

「実は用意していました」といって手帳を取り出す学生もいれば、その場で一生懸命に質問をひねり出す人もいました。まったく仕事とは関係ない私の趣味を聞いてくる人もいましたがそれもOK。仕事のこと、会社の未来のこと、会社の雰囲気、通販のやりがいといったことには、それに丁寧に真摯に答えるようにしていました。そしてそんな回答の中に、私の仕事上の価値観や個人的な好みなども積極的に交えていました。個人的な回答をすることで、学生さんも個人的な反応を返してくれることが多かったのです。
「それ私も好きです」とか「共感します」といった反応です。

個人的な話なので、面接開始時では見せなかった表情や言葉遣いが現れてきます。そして個人的であるがゆえに表面的か本心かも分かりやすい。
相手のプライベートを聞くのは昨今の面接ではNGですが、こちらが自らさらけだすのは構わないはず。そしてその話に乗ってきてくれて学生も自ら個人的なことを話し始める流れです。
ほぼ雑談といってもいい時間ですが、そうした話から私もその人の価値観や大切にしていることが分かりますし、私の価値観や大切にしていることも「素」で伝えられる。

そんな時間を通じて、学生が「この会社で働きたい」「この社長の会社で仕事をしてみたい」と思ってもらえるように務めました。
そして勿論のことですが、私も「この人と一緒に仕事をしたい」「この人にはぜひうちに来て欲しい」と思えるかどうかを判断していたわけです。

最後の判断は?

後に入社した社員から言われたことがあります。
「面接であまりにくだけ過ぎてしまって絶対に落ちたと思ってました」
それに対して私は
「そのくだけた様子をみて絶対にあなたを採用すると決めたんですよ」
と答えました。

人によってそれぞれ色んなタイプの面接はしましたが、基本的に採用した人は、この雑談ともいえる学生からの社長への質問タイムで盛り上がることのできた人でした。
学生とは説明会などで顔を合わせることはあっても、社長面接こそが私と学生双方にとって初めてじっくりと話をする時間です。能力的な要素は筆記試験でパスしていますし、幹部面接も通った面々です。
この初対面の場で「意気投合」して通販の仕事や自社の目指すことで盛り上がれるか、個人的な話からお互いの価値観に共感できるか、楽しかったことに一緒に笑えて、嫌だったことに一緒に不満を共感できたか。
そんな観点から私は最終判断をしてきました。

実際には内定辞退もたくさん経験しましたが、それでも入社してくれた社員たちは誰もが私にとっての「理想の人材」でしたし、通販の仕事に自社の仕事に楽しく前向きに主体的に取り組んでくれたと思っています。

そんな彼らのおかけで、私は在任中に会社の業績も伸ばすことが出来たのです。彼らには本当に感謝しかありません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?