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業務の属人化解消のためにまず取り組んだこと

以前に業務の属人化についての考え方を書きしたためました。

属人化は専門性を高めることもありますが、組織マネジメントとしてはリスクが高い状況です。前回の記事では、属人化の解消として個性を活かした標準化を目指す、というようなことを書きました。しかしこの考えは経営者の意識的なものを語ったものでもありました。
そこで今回は私自身が自社の属人化を解消するための第一歩として具体的に行なった施策について振り返ってみたいと思います。

属人化を解消したいと思った背景

まだ役員になり立ての頃、経営がなんたるかをほとんど理解できておらず、その割に役職と権限、そして責任ばかりが大きくなりました。そして業績の拡大を目指して中途採用で社員を増やしていきました。社員を増やす理由とすれば、私自身の「これをやりたい」というものもあれば、当時の既存社員からの「これをやりましょう」や「この業務に人が足りていない」というのもありました。

直接的な通販経験者というのは当時の人材市場ではなかなか見つけることはできないので、必要としている職務に近しいと思われる異業種からの採用ということになります。
ほぼ通販業界しか知らない私にとって、異業種での経験者というはある意味とても新鮮な存在でした。それは私の知らないことを知っている、だったり、私のできないことができる人だったからです。もちろんそうしたキャリアを見込んでの採用でもあったわけですから当然と言えば当然です。しかしこのような採用を続けたことが結果として属人化を加速することにもなりました。

皆さんそれぞれ経験者ですから、何を目的にして、いつまでにどのような成果を上げてくださいといった指示を出せば、相応の仕事はできます。もちろん自社の方針や予算感、規模感などは理解してもらい、業界の慣習といったものを都度覚えてもらっていました。
そして成果を出せた社員たちには、それぞれの仕事を任せるようになっていきます。私としても、上があれこれと細かく口を出すのは嫌でしたし、なによりも私がそうされることを好まなかったこともありましたので、よく言えば担当に一任、悪く言えば放任といった状態となっていきます。

今だったら、いわゆる「ガバナンス」を考えたマネジメントをしたと思いますが、当時中小企業のサラリーマンあがりの新米役員はそこまで頭が回ることもありませんでした。

こうした積み重ねが各業務の属人化に繋がっていったのではと思っています。

属人化のリスク

属人化のリスクは、言うまでもなくその本人しか業務の詳細が分からないというところにあります。本人の不在時、休暇時になにか取引先とトラブルが発生した場合、他の誰かで対応ができずに結果的に業務の進行が遅れることになります。

もうひとつのリスクは、その社員が退職した場合に今までの経緯や方法が後任に継承されないということです。もちろん退職時には一定の引継ぎは行なわれますが、限られた時間で充分な引継ぎというのは中々難しいものです。後任の経験が浅い場合などはなおさらです。

属人化が進んだ組織になると、その社員に任せきりという状況になりますので組織のバランスも崩れてしまいがちです。一般的には属人化が進めば進むほど業務の共有化は損なわれますので、組織全体のスキルアップも阻害することになります。

嫌な言い方になりますが、能力の高い社員に属人化してしまうと、その社員の自己主張が強まってしまい「特別扱い」を余儀なくされる場合もあります。その人にしかできない、分からない、でも成果は上げているという社員は、経営側からすると「辞められたら絶対に困る」存在となってしまうので、非常に厄介な存在になってしまうのです。
また他の社員からのクレームが増える要因にもなり得ます。

実際にここまでの悪い状態になることは幸いにもありませんでしたが、マネジメントが上手くできずに悩んでいた当時の私としては、大いなるバッドシナリオとなっていました。

こういう状況にはしたくない、してはならない、なったら面倒くさい!

という未来像が危機感となって、属人化解消への取組みへと繋がっていきました。

最初の第一歩は

具体的に行なった最初の一歩とは何だったか?
それは文書管理ルールの策定でした。

あっけない解決策と思われた方がいたら申し訳ありません。
行き当たりばったりの中小企業ですので、そんな大掛かりで画期的な方法ではありません。実にシンプルで当たり前の施策です。しかしこれが功を奏して変わり始めるきっかけとなったのです。

それまでは各自がそれぞれに自分のやり方で文書管理をしていました。取引先リスト、見積書、請求書、取引先との進行管理表、確認事項のやり取りなどなど、商品開発であれば仕様と変更依頼や依頼に対する回答の書面、原稿制作なら文字校正のやり取りや原稿審査の結果などがあります。
こうした書類が紙であれば、担当者ごとにファイルをしてデスク上や引き出しの中に保管されていました。社内ネットワークは構築されていましたが、共有フォルダの定義も曖昧なままだったので、個人がそれぞれ共有フォルダに自分のフォルダを作って自己流で保管していたり、人によってはデスクトップ上に保管するなどしていた状況だったのです。

これでは当人以外は誰も見ることができない。業務上の資料とは言え、他人の引き出しを勝手に開けるのは憚られますし、デスク上のファイルを勝手に開くのも気が引けてしまいます。そんな状況だから他の人からすると何も分からないといった状況。これでは属人化してしまうのも無理はありません。

その頃、人も増えてオフィスレイアウトの模様替えも考えていたときだったので、什器メーカーの営業の方に相談してみたところ、文書管理専門のコンサルティングチームがあるとのこと。什器の買い替えと一括して行なうことで費用も相談に乗ってくれたこともあり、文書管理プロジェクトを進めることになりました。

ただ業務の属人化を解消するという趣旨を第一義に話してしまうと、人によってはうがった印象を持つ人もでるかもしれない。各自の仕事の進め方にケチをつけるのか?と思われると上手く行かない気がしました。

そこで目的の最大の目的はこのようにしました。

オフィスの整理整頓

なんか教室の張り紙みたいですが、この言い方だと「そりゃそうだよね」という常識の範囲内のプロジェクトと感じてもらえると考えたのです。

「人も増えてデスクも増えたので、書類の保管場所もきちんとルール化しないとスペースがなくなるよね」
「各自がそれぞれファイルを買って並べていたら文具代も膨らむよね」
「散らかったオフィスだと紛失物も増えそうだよね」
「というか、散らかったオフィスだとやっぱり落ち着かいないよね」(これは人それぞれかもですが)

こんな理由で始めると抵抗感は少なくなります。
また、もともと整理整頓が上手な社員からすれば、散らかったオフィスは耐え難いという声もあったので、その要望への対応にもなります。

実際に什器メーカーのオフィス見学に何人か連れて行ったこともあります。そういうメーカーさんは自社のオフィスをショールームとして開放しているフロアもあるので見学させてくれるのです。当然文書管理コンサル部門もある会社ですから、整理整頓も完璧です。

日頃はデスク上が散らかり放題の社員であっても、そういったオフィスを目の当たりにするとやっぱり認識が変わります。
「やっぱりきれいなオフィスがいいですね」
といった感想がこぼれてきます。

そんなこんなで社員数人も交えて文書管理プロジェクトチームを作り、彼らを中心に各部門の保管書類のリストを作り、部門間でも共有しながら管理様式をすべてルール化しました。これによってデスク上や引き出しの中に各自が勝手にファイルを並べることはなくなり、すべて定められた書棚にルールに従って保管するようになりました。ファイルの背表紙のつけ方もルールを定めた結果、どの部署のどの資料がどの棚のどこにあるかも社内で共有されたので、例えば他部署の人であっても自分で探すことができるわけです。社内ネットワーク上の共有フォルダもすべてフォーマットを作り、フォルダとファイルの名前のつけ方も統一ルールを設けました。

文書管理ルールの効果

これを実行してみると、担当者が休んだとしても今どんな状況なのかというのはある程度他の人でも把握できるようになります。これは意外に別の効果ももたらしました。急な病気で突然休んだとしても、上司や同僚が資料を探して対応できるようになったことから、安心して休めるというメリットを生んだのです。そして休んでいる間にサポートしてくれた同僚たちとの関係性もよくなり、「困ったときはお互い様」という風土の醸成にもつながったのでは、と私は感じています。

この第一歩があって、属人的組織というリスクの解消がより進めやすくなったと私は考えています。

組織開発、組織変革をしようと思った時、得てして大上段に構えたアドバルーンをあげてしまいたくなることが多かったりします。
しかし、逆にごくごく一般的な目的を第一義としては、皆からしても
「そりゃそうだよね」
「確かにその方がいいだろうけど」
「まあ、そうなんですけどね」
くらいに感じてもらえるアプローチから進めていく事の方が効果的なのでは、と私は思っています。


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