見出し画像

『静学スタイル』を読む

本日は、井田勝通『静学スタイル』の読書感想文です。

高校サッカーの名門、静岡学園

2020年1月13日、第98回全国高校サッカー選手権の決勝戦で、静岡代表の静岡学園が、大会二連覇を狙う青森代表の青森山田を3-2で破り、見事優勝を飾りました。同校にとって2度目の栄誉で、前回(1996年 第74回)は、鹿児島実との両校同時優勝だったので、初の単独優勝となりました。

静岡学園は、高校サッカー界屈指の名門校で、これまでに数々のJリーガーを輩出しています。その礎を一から築いたのが、本書の著者である同校前監督の井田勝通氏です。

高校サッカーに詳しい人ならば、知らない人のいない指導者界のレジェンドです。コーチングスタッフは、現監督の川口修氏をはじめ、全員が井田氏の薫陶を受けた同校OBです。キングカズこと三浦知良選手も井田氏の教え子(カズ選手は高校1年生で静岡学園を中退している)の一人です。

井田勝通氏とは?

井田勝通氏は、1942年満州生まれ。太平洋戦争終結後に日本に戻り、中学1年生でサッカーをはじめ、静岡高校から慶応義塾大学に進みました。

サッカー指導は、大学時代からしていたようです。大学卒業後に地元の静岡銀行で働きながらサッカー指導を行っていた時に、サッカー指導の奥深さを知り、周囲の反対を押し切って、プロコーチに転身する決断をします。1970年頃の話です。

当時の日本に、Jリーグはありません。サッカーは今のように野球と人気を二分するようなメジャーなスポーツではありませんでした。Jリーグの創設によりサッカービジネスが社会に根付いている現代ならばいざ知らず、当時としては勇気ある決断であり、途轍もない情熱と覚悟です。

当時の校長に直談判して、1971年12月に静岡学園のコーチに就任すると、当時主流のドイツ式のスタイルとは異なる、個人技とドリブルを重視するブラジル流サッカーのスタイルを貫き、無名の同校を全国屈指の強豪に育て上げていきました。

サッカー王国、静岡で個性的な才能を生み出し続ける

井田氏は、選手指導で最も大切な要素は、指導者の情熱だと言います。選手の心を「スイッチオン」させる為には、指導者の本気の情熱が必要だと何度も強調しています。恵まれたトレーニング環境を提供しているJリーグ下部組織よりも、予算の少ない高校サッカーの方がいい選手を輩出しているのは、体制以上に指導者の熱量の違いではないかと指摘しています。

静岡県は、自他ともに認める「サッカー王国」です。県内には清水東、清水市商(現・清水市立桜が丘)、東海大一(現・東海大学付属静岡翔洋)、藤枝東などの強豪校が目白押しです。

これら強豪校にも、静学(文中で井田氏は「学園」と呼んでいますが)の井田氏に劣らぬ情熱を指導に注ぐ個性的な指導者がいて、お互いに切磋琢磨し続けています。静岡のハイレベルな環境が日本サッカー全体の実力の底上げに貢献していたことは間違いありません。

日本代表の主力を担った静岡県出身の選手は、
藤枝東……中山雅史、長谷部誠
清水東……高原直泰、相馬直樹、内田篤人
清水市商……藤田俊哉、川口能活、名波浩、小野伸二(清水市商)
東海大一……澤登正明、森島寛晃、服部年宏、鈴木啓太(東海大一)
静岡学園……三浦泰年、三浦和良(中退)、大島僚太(
ら、錚々たる面々であり、才能の宝庫なのがよくわかります。

「第三章 人間力」が深い内容ばかり

本書は、指導力(第一章)、技術力(第二章)、人間力(第三章)の三章構成ですが、サッカー以外にも応用できる生き方のヒントが詰まっているのが、第三章です。

特に印象的だったのが、「心のコップを上に向けさせろ」(P170~172)という項です。心のコップの向きが、感じ方や考え方、生き方全般に影響を与えるという教えには感銘を受けました。

結果が出ずに苦しんでいる時、心のコップが上向きな人は、「自責の念」を持ち、「未来」を基準に自分の進むべき方向が考えられる。一方、心のコップが下向きな人は、「他責の念」を持ち、「過去」を基準に自分の方向性を考えてしまう。成功に向かって突き進む人生を望むなら、心のコップを上に向けておかないといけないと痛感しました。 

そして、井田氏の指導のモットーは、

真剣さのみが人を人とし、努力と汗のみぞ天才を作る

です。

井田氏は決して優しい指導者ではありません。選手を平等に、情熱を持って扱うという基本は守りつつも、暴力や厳しい叱責、理不尽な仕打ちもやっていたことを隠していません。

鉄拳制裁も含む熱血指導が、現代でOKかどうかは微妙な面はあります。ただ、真剣に努力もせず、汗も流さないのであれば、何も成し得ないというのは真実だと強く感じます。




この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。