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2024箱根駅伝(往路)観戦記

駅伝観戦三昧の二日目は、『第100回東京箱根間往復大学駅伝競走』の観戦記です。

レースの見所

優勝候補の筆頭は、駒澤大学です。出雲、全日本を一度も首位を譲らない圧倒的な強さで制し、史上初の二年連続三冠が視野に入っています。学生トップランナーの鈴木主将、篠原選手、佐藤選手の三本柱を主力に、脇を固める選手達の層も非常に厚く、スキのない布陣で臨んできそうです。名将・大八木監督の後を継いだ藤田新監督の采配も注目されます。

実業団レベルでも通用しそうな王者・駒澤大学に挑むチームでは、前回2位に入り、スーパーエースの吉居大和選手ら強力世代が最終学年を迎える中央大学、箱根に全てをかけるレース巧者・青山学院大学、戦力強化が進み今年こそと意気込む國學院大學、出雲の2位、3位で山に強みを持つ創価大学、城西大学あたりが注目校となりそうです。

第1区 21.3㎞ 大手町〜鶴見

1区での出遅れはレースプランを狂わせ、致命傷になりかねないため、優勝を狙う各校はチームの主軸をつぎ込んできました。

箱根山中は雨予報なるも、スタート地点の東京大手町は今年も晴天に恵まれ、緩やかな追い風の吹く絶好のレースコンディションです。駿河台大学の強力留学生ランナー、レマイヤン選手の飛び出し対策なのか、駒澤大学は三本柱の一人、篠原選手を投入して先手必勝を狙ってきました。

飛び出したレマイヤン選手のペースについていく篠原選手を追って、優勝を狙う國學院大學の主将・伊地知選手、青山学院大学・荒巻選手もその背後につく展開となりました。少し離れた後方では、オリンピアンの順天堂大学・三浦選手らを含む集団を形成し、こちらもハイペースで進めます。駅伝慣れしていないルーキーのレマイヤン選手は、後ろにつかれるのを嫌がり、ペースを上げ下げしたり、コースを蛇行したり、やや落ち着きません。

15㎞過ぎの京急蒲田踏切跡のチェックポイントでは、レマイヤン選手と篠原選手が並走、少し遅れて伊地知選手と荒巻選手、その後ろに大集団という隊列です。余裕がある篠原選手が、勝負所の六郷橋上りに入る手前でスピードを上げて先行すると、後はひとり旅となります。後方集団からは、創価大学・桑田選手、城西大学・野村選手、日本大学・西村選手ら、好調な選手たちが一気にペースを上げて、スピードが鈍った伊地知選手、荒巻選手を吸収し、更に前へと迫っていきます。

篠原選手のスピードは最後まで衰えず、歴代2位の好タイムで箱根では初の区間賞を獲得しました。駒澤大学としては、二年連続の三冠達成に向けて盤石のスタートです。しかし後続との差はそれほどは広がらず、創価大学が23秒差の2位、城西大学が24秒差の3位と続き、以下13位の大東文化大学まで1時間1分台で走破する史上最速の1区となりました。ただ、優勝候補の一角、國學院大學は前半積極的に走った伊地知選手が終盤崩れて1分33秒差の17位、中央大学は1区スペシャリストで次期エースに期待されている溜池選手が前半に集団から遅れて1分49秒差の19位、と出遅れ、誤算のスタートとなりました。

区間賞 篠原倖太朗(駒澤大学3年)1時間1分2秒

第2区 23.0㎞ 鶴見〜戸塚

各校の誇るエースが鎬を削る『花の2区』に、今年も豪華なメンバーが揃いました。権太坂のアップダウンまでをリズムに乗って走り、ラスト3㎞からの戸塚の壁をどう攻略するかがポイントとなる難コースです。

首位でタスキを受けた駒澤大学の主将、鈴木選手が快調に走ります。その約20秒後方から2位と4位でタスキを受けた創価大学・ムチーニ選手、日本大学・キップケメイ選手の留学生ルーキーが並んで追いかけ、更にその後方に各校エース達が大集団を形成するという展開です。

個性派選手揃いの常勝軍団を強いリーダーシップで束ねてきた鈴木選手は、念願だったという2区を前半はリラックスして軽やかに、権太坂のアップダウンを越えてからは粘り強く、1時間6分20秒の好タイム(区間2位)で押し切り、見事に大役を果たしました。

後方では、9位スタートの青山学院大学の黒田選手がひときわ快調で、集団内の振り落としに耐え、先行するムチーニ選手まで抜き去り、区間賞の走りで首位と23秒差の2位まで進出してきました。3位は創価大学、4位には2年生エースの山口選手が力走した早稲田大学、5位には10000m27分台ランナーの斎藤選手が後半粘って追い上げた城西大学、6位には並木選手が大健闘した東京農業大学と続きます。前評判が芳しくなかった東洋大学は、梅崎選手が気迫溢れる走りを見せ、8人抜きで7位に進出してきました。

1区で17位と出遅れた國學院大學のエース、平林選手は実力を発揮し、区間3位の走りで9位まで順位を挽回してきました。一方、昨年区間賞を獲得している中央大学の絶対エース、吉居大和選手は、19位からスタートした順位を17位に引き上げたものの、走りはやや精彩を欠き、最後の箱根駅伝は区間15位の平凡な結果に終わりました。

区間賞 黒田朝日(青山学院大学2年)1時間6分7秒

第3区 21.4㎞ 戸塚〜平塚

ここまでプラン通りにレースを進めている駒澤大学は、三本目の柱、10000m今季日本人学生最速タイム(歴代2位)を持つ佐藤選手で、この区間で優位な体制を築きたいところでした。出雲、全日本と2区で独走優勝の土台を固める走りをしてきた佐藤選手は、自信に溢れる走りでトップをひた走っていました。

ところが、23秒差の2位でスタートした青山学院大学の太田選手が、その佐藤選手を上回る驚くべきハイペースで追い上げ、湘南海岸に入る浜須賀交差点の手前で追いつくと、背後からプレッシャーをかけるように走ります。過去2回の箱根駅伝で驚くべき走りで見せ場を作ってきた太田選手は、今回もすこぶる快調で、何度も揺さぶりかけて佐藤選手のスタミナを奪いにかかります。中継手前で粘る佐藤選手を振り切り、4秒差で首位を奪取し、遂に駒澤大学の牙城を崩し、背中を見せることに成功しました。区間記録には及ばなかったものの日本人ランナー初の1時間切りを果たす見事な走りでした。

留学生のキムタイ選手を起用した城西大学が3人抜きで3位に進出し、4-6位は混戦で、4位には競り勝った名門日本大学の安藤選手が先着しました。5位に東洋大学、6位に國學院大學と続きます。昨年区間賞の中央大学・中野選手は、後方からの走りで奮わず、区間20位とブレーキになってしまいました。

区間賞 太田蒼生(青山学院大学3年)59分47秒

第4区 20.9㎞ 平塚〜小田原

4区は、細かなアップダウンが連続してペースが掴みづらく、相模湾からの海風と箱根からの山風の両方の影響を受ける難しいコースです。しかも雨が降る厳しいコンディションです。

遂に王者・駒澤大学に背中を見せることに成功した青山学院大学は、4年生エースの佐藤選手がスタートからハイペースで突っ込み、駒澤大学の三本柱に次ぐ準エース、2年生の山川選手との差を一気に引き離しにかかります。佐藤選手は、11月後半に体調を崩して距離に不安があったことを微塵も感じさせない堂々たる走りで、1時間1分台の好タイムをマークして走破し、区間賞を獲得。差し込みの影響なのかペースが上がらない山川選手を大きく引き離す殊勲の走りで、5区中継では1分27秒の大量リードを駒澤大学から奪いました。

復活した東洋大学のエース、松山選手の激しい追い上げをしのいだ城西大学・山中選手が3位を死守し、僅差の4位で東洋大学、5位には國學院大學がルーキー、辻原選手の好走で上がってきました。早稲田大学は、10000m27分台ランナーの石塚選手が踏ん張り、6位を回復しました。

5000m日本人高校最高記録保持者、スーパールーキーの順天堂大学・吉岡選手は、今季の駅伝シーズンは不振の走りが続いており、この箱根でも区間8位と大きなインパクトを残せませんでした。

区間賞 佐藤一世(青山学院大学4年)1時間1分10秒

第5区 20.8㎞ 小田原〜芦ノ湖

首位に立った青山学院大学の5区は、2年前に箱根芦ノ湖のゴールテープを切った実績のある若林選手。淡々と上っていきます。予想外の展開となった追う駒澤大学は、2年前に区間4位と好走し、チームの副将を務める金子選手が走ります。前半こそ微かに差が詰まったものの、激しい雨が降る箱根山中に入ると、じわじわとその差が広がりはじめ、青山学院大学俄然有利な展開となってきました。下りにさしかかると、若林選手のギアが入り、区間新記録をマークして往路優勝のテープを切りました。金子選手も区間3位の力走でしたが、ひとりで1分以上引き離す殊勲の走りです。

後方では、区間記録保持者、城西大学の山本選手が快調で、軽い走りで飄々と山を登っていきます。初代山の神、今井正人氏が打ち立てた1時間9分12秒を破る史上初の8分台は出なかったものの、二年連続の区間新記録で走破し、同校史上最高順位の3位でフィニッシュしました。単独走でマークしたこの記録は驚異的です。

4位には2年生、緒方選手が粘った東洋大学、5位にはルーキー、工藤選手が力走した早稲田大学、6位には次期エース候補の上原選手が頑張った國學院大學が入りました。その後ろからは、もう一人の山の神候補で、最低でも区間記録更新と豪語していた創価大学の吉田選手が、自信満々で箱根山中へと駆け出していったものの、苦手な寒さに苦しめられたのか、本人的には不発の区間9位に終わり、チームも7位に進出するのが精一杯でした。むしろ"山の大東"の称号復活を担った大東文化大学・菊地選手が区間4位の力走でチームを8位に押し上げたのが光りました。

自身の持つ往路記録を3分3秒も更新した青山学院大学の快走によって、明日の復路は8位の大東文化大学以降の16チームが繰り上げスタートとなりました。

区間賞 山本唯翔(城西大学4年)1時間9分14秒=区間新

往路成績

① 青山学院大学 5時間18分13秒=往路新記録
② 駒澤大学 5時間20分51秒(+2分38秒)=往路新記録
③ 城西大学 5時間21分30秒(+3分17秒)
④ 東洋大学 5時間25分19秒(+7分06秒)
⑤ 早稲田大学 5時間26分05秒(+7分42秒)

勝手に寸評

青山学院大学が、自身が持つ従来記録を3分3秒も上回る驚異的な往路新記録で2年振り6度目の往路優勝を飾りました。

1区で荒巻選手が区間9位ながら、先頭から35秒差に抑えて滑り出すと、2区の黒田選手が圧巻の爆走でチームに流れを呼び込みました。2区以降は圧巻で、5区の若林選手も区間賞こそ山本選手に譲ったものの、区間新記録で走破し、絶対王者・駒澤大学に2分38秒の大差をつける圧勝でした。

駒澤大学も往路新記録であり、力を発揮しての2位です。鬼門になるかもしれない1区、2区をエースで乗り切ったことで、油断が生まれたのかもしれません。これまでの駅伝でゲームチェンジャーの役割を演じてきていた3区の佐藤選手が、一昨年の安原選手、昨年の鈴木選手を苦しめた"駒澤キラー"とも言うべき太田選手に抜き去られることは全く想定外だったでしょう。2年生ながら主力を担う4区の山川選手は、これまでの駅伝では前を追いかけるレースをする経験が少なく、焦りがあったかもしれません。復路は苦しい戦いになりますが、下りのスペシャリスト、伊東選手から反撃を狙うことでしょう。

3位の城西大学は、往路優勝を狙えるメンバーを並べ、実力を示しました。4位には、前評判は今一つでしたが、2区梅崎選手、4区松山主将の奮闘が光った東洋大学が大健闘で入りました。5位早稲田大学、6位國學院大學、7位創価大学は、途中の区間で誤算もあったもののまずまずの出来でした。

明日の復路は、繰り上げスタートする8位以降の16チームによるシード圏争いが熾烈を極めそうです。

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駅伝観戦歴40年以上の経験を活かし、中長距離、マラソン、駅伝に関する観戦記や備忘録のnoteを書いています。一度覗いて見て下さい。

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