『銀河鉄道の父』を観る
本日は、ずっと気になっていながら、なかなか機会が合わず、予定が延び延びとなっていた映画『銀河鉄道の父』を、仕事終わりに観て来ました。その感想文です。
※ネタバレを含みます。
直木賞作品の映画化
本作は、門井慶喜氏の直木賞受賞作品『銀河鉄道の父』の映画化です。私は原作を読んでいないのですが、宮沢賢治の父、宮沢政次郎を主人公とする感動の物語だと言われていました。監督は、『八日目の蝉』『いのちの停車場』『連合艦隊司令長官 山本五十六』などのヒット作品を生み出してきた成島出氏、脚本は坂口理子氏が担当しています。
岩手県花巻市の宮沢家を巡るお話で、主要な登場人物はほぼほぼ宮沢家の人々だけです。賢治の父、政次郎を現代の名優、役所広司、賢治役には、多彩な役柄を演じ分けて評価の高い菅田将暉、賢治が物書きになるきっかけを作る賢治の妹としを、めきめき頭角を現している森七菜が演じています。母のイトは、抑えた演技が渋く光る坂井真紀、政次郎の父、賢治の祖父にあたる喜助は、こういう役をやらせると天下一品の田中泯です。パーフェクトなキャスティングでしょう。
「父と子」は私の重要なテーマ
人生後半戦の私の重要な生きるテーマは「息子のよき父になる」です。父と子の関係には色んな形があり、たった一つの正解があるわけではありません。自分の抱いている思いが、期待した通りに子に伝わるかは未知数であり、そこには無粋な計算は成り立ちません。日々迷いが生じ、父を全うすることの難しさを感じる今日この頃なので、この映画で描かれる父と子の関係には注目していました。
冒頭に、賢治が産まれたという電報を受けて、家に帰ろうとしている政次郎の姿がユーモラスに描かれています。電車内のシーンは、銀河鉄道とラストへの伏線になっているのでしょう。ここから始まって、政次郎が、心の底から長男の賢治(を含め四人の子ども)を愛し、可能性を信じていることのエピソードが重層的に積み重ねられていく構成になっています。古くて厳格なステレオタイプな父親像だけではなく、柔軟でハイカラなイメージも随所に滲ませています。ケーキとマグカップが書斎に置かれていたり、トシが療養先ではベッドで生活していたり、土間にペルシャ絨毯が敷かれていたりします。経済的には裕福で、モダンを好む家庭、という演出でしょうか。
"父と子"というテーマでいえば、喜助から、
ということばをかけられるシーンが印象的です。本来母親の役目と思えることまで出しゃばって、何でも自分でやろうとする過保護な面が垣間見えます。割と面倒臭い父親です。
重要な事実を思い切り端折り、家族以外との人間関係をほぼカットした強引なストーリーを、役所広司の卓越した演技力で押し切っている感はあります。
賢治は、父から見れば、純粋で、真っすぐで、可愛い息子ではありますが、結構なポンコツぶりを発揮し、はっきり言って社会不適合者の変人として描かれています。その絶妙のおかしな感じを、菅田将暉は実に巧みに演じていると思いました。
私も息子を溺愛する父です。
と呟くシーンには、ジーンと熱くなりました。しかし、政次郎のように、時に厳しくも、寛大で包み込むような愛を、息子に与えてあげられているかは自信がありません。
宮沢賢治の生涯
宮沢賢治(1896/8/27-1933/9/21)は、37歳で夭折しています。『注文の多い料理店』『銀河鉄道の夜』などとともに、最も有名なのは、愛用の手帳に書き残されていたという『雨ニモマケズ』ではないでしょうか? 全文引用しておきたいと思います。
深い… と溜息が出ます。賢治自身が搾り出した、嘘偽りのない、心からの叫びだと感じます。こういう生き方に対して、穿った見方は幾らでもできそうですが、こうした気持ちで真剣に取り組んでいる人を茶化したり、嘲笑ったりする態度は、人間として卑しい気がします。
サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。